混迷深めるカンボジアメディア 独立系英字紙、マレーシア資本に売却

プノンペン・ポストのカイ・キムソン編集長。新オーナーから即時解雇が通告された(2017年1月撮影)
プノンペン・ポストのカイ・キムソン編集長。新オーナーから即時解雇が通告された(2017年1月撮影)【拡大】

 カンボジアの英字新聞プノンペン・ポストが4月末、マレーシア資本に売却された。同紙は1992年に米国人ジャーナリストにより創刊され、2008年にオーストラリア系資本が買収。英字紙のほか、カンボジア語版も発行されている。昨年9月に、別の英字紙カンボジア・デイリーが廃刊に追い込まれてから、プノンペン・ポストは「政権批判ができる唯一の新聞」とみなされていた側面もあり、親フン・セン政権とみられるマレーシア資本への売却には衝撃が広がっている。

 ◆編集権の独立の危機

 プノンペン・ポストが5月6日付で自ら報じた記事によると、同紙の売却先は、マレーシアのPR会社「アジアPR」の執行役員、シバクマール・ガナパシー氏。売却は4月28日、前オーナーのビル・クロー氏により社員たちに伝えられた。クロー氏はガナパシー氏を「ジャーナリストの経験もある信頼できるメディアオーナー」と説明した。しかし、新オーナーの連絡先は知らされず、スタッフがアジアPRに連絡しても話をすることができなかった、としている。

 また、同じ記事には、新オーナーであるアジアPRが以前、フン・セン政権の仕事を請け負ったことがあることや、1990年代後半に発刊されていた親フン・セン政権紙のカンボジア・タイムズに関与していたとみられることなどが書かれてある。そのうえで、識者の談話として「マレーシアやカンボジアの政府と近い関係にあるとみられるオーナーがプノンペン・ポストを買収したことは大変心配なことだ。高い確率で、編集権の独立を侵すだろう」と書いた。

 5月7日付のタイ英字紙バンコク・ポストによると、新オーナーのガナパシー氏は6日付の自紙の記事を強く非難。自分の名前が間違っていることや、アジアPRの執行役員ではなく最高経営責任者(CEO)であること、マレーシア、カンボジア両国政府と近しい関係にあるというのは事実ではないこと、カンボジア・タイムズには関与していないことなど、記事内の「誤り」を指摘した。「事実の確認を怠り、悪意に満ちた記事を書いたことは、記者の行動倫理に反するものであり、プノンペン・ポストにふさわしくない」として、筆者の記者2人と、編集長のカイ・キムソン氏に即時解雇を通告した。

 ◆最大野党を解党

 カンボジアではメディア界の混乱が続いている。2017年9月に、カンボジア・デイリーが、ほぼすべての商取引に課税されている付加価値税を支払う義務を約10年間怠ったなどとして、追徴金630万ドル(約6億8985万円)の支払いを求められ、廃刊に追い込まれた。同じころ、フン・セン政権は、最大野党・カンボジア救国党の党首逮捕や、米国政府系メディアの閉鎖など親米勢力に強い圧力をかけており、米国人が創刊したカンボジア・デイリーも標的になったのではないかと指摘された。

 プノンペン・ポストをめぐっては、やはり租税総局から約390万ドルの追徴金支払い命令があったと報じられていたことから、「カンボジア・デイリーと同様に廃刊に追い込まれるのではないか」との臆測も飛び交った。しかし、プノンペン・ポストの前オーナー、クロー氏は、今回の売却で追徴金についても解決したとしており、詳細は述べていないものの、カンボジア・デイリーのケースとは違うとの姿勢を貫いている。

 カンボジアは7月29日、5年に1度の国民議会選挙を控えている。フン・セン首相が率いる最大与党・カンボジア人民党は前回13年の総選挙で辛勝したものの、カンボジア救国党に予想外に追い詰められた。また17年6月の地方選挙では、得票率で与野党がほぼ互角になるなど、深刻な与党離れに危機感を抱いていた。

 政権は野党勢力の背後には米国の力があると指摘し、救国党のケム・ソカー党首を国家転覆罪で逮捕するなど、野党と米国系勢力の排除に動き出した。さらに、党首が訴追された政党は解党を命じることができると改定した政党法によって、救国党を解党。同党政治家の政治活動を5年間禁じ、国会の同党議席を他党に分け与えた。

 カンボジアには、与党とわたりあえる規模の野党が救国党しかなかった。救国党の元党首、サム・レンシー氏は、国外に滞在しながら総選挙のボイコットを呼びかけているが、政治活動や報道の自由を次々に封じ込められ、カンボジア国民の選択肢はどんどん狭められている。国際社会の批判を浴びながらも、フン・セン政権は、野党勢力を根こそぎにした形での総選挙を迎えることに成功しつつある。(カンボジア月刊邦字誌「プノン」編集長 木村文)