印のチベット難民社会で失われる活気 国境警備厳格化、中国の圧力じわり

インド北部ダラムサラで記者の質問に答えるチベット亡命政府議会のドルマ・ツェリン議員(共同)
インド北部ダラムサラで記者の質問に答えるチベット亡命政府議会のドルマ・ツェリン議員(共同)【拡大】

 中国から隣国インドに逃れるチベット難民が急減している。2008年の中国チベット暴動から10年が経過し、国境警備が徐々に強化されてきた上、中継地だったネパールが中国の求めに応じて亡命ルートを狭めたからだ。欧米に再亡命を図る難民も多く、亡命政府がある最大居住地インド北部ダラムサラでは、かつての難民社会の活気が失われつつある。

 ◆一帯一路で支配

 「10年前は年に数千人の難民がインドに亡命したが、最近は年に数十人から100人と大きく減った」

 ダライ・ラマ14世が暮らすダラムサラの亡命政府関係者が明かした。

 09年の調査では、約15万人とみられる世界のチベット難民のうち約10万人がインドに居住しているとされる。19年の次回調査まで正確な人口は不明だが、「ダラムサラでは難民の学校や僧院などで空き部屋が目立つ」(僧侶、ロブサン・イエシさん)。亡命社会の縮小を懸念する人が多い。

 亡命政府のロブサン・センゲ首相らによると、難民の主要なインド亡命ルートはネパールを中継する陸路だった。だが、08年のチベット暴動を受け、中国が国境管理を厳格化した上、ネパールも現代版シルクロード構想「一帯一路」を掲げる中国との結びつきから、摘発を強化した。

 非政府組織(NGO)チベット民主人権センターのツェリン・ツォモ理事は「ネパールに到着しても、難民の個人情報が中国政府に渡されるため危険だ。中国に送還された難民もいる」と指摘する。亡命政府議会のドルマ・ツェリン議員は「中国は一帯一路の名の下に(地域を)支配している」と警鐘を鳴らした。

 ◆欧米に再亡命も

 ダラムサラや首都ニューデリーの一角では、寺院や仏具店が立ち並び「リトル・チベット」と称される地域がある。しかしインドの1人当たり国民総所得は中国の約5分の1の年1680ドル(16年、約18万円)。豊かな欧米に再亡命を図る若者は増加するばかりだ。

 ニューデリーで暮らす難民のドルマ・パルゾムさんは「インドには良い仕事がないので、欧米に亡命したい」と話した。ダラムサラで日本料理店を営む山崎直子さんの店でも、難民従業員の多くがオーストラリアなどに移住した。

 山崎さんは「豊かになった中国で就職したいと考え、中国当局の許可を得て自治区に戻ろうとする若い難民もいる」と指摘。「ダラムサラの難民は高齢者ばかりになった。チベット伝統の祭りも減り、チベット難民の一大拠点としての一体感も次第に薄れてきている」と話した。(ダラムサラ 共同)