また、ITや人工知能(AI)を活用して広域化・効率化を推進することもポイントだろう。経済産業省の報告書「社会インフラのスマート化に関する水道事業におけるIT活用」(15年)によると、大規模事業体(給水人口50万人以上)ではITの活用により財務数値が10%削減、中規模事業体(5万以上50万人未満)では10~20%削減、小規模事業体(5万人未満)では10~40%削減できる可能性を示唆している。
英国方式・OECD指針参考に
日本の水道の現状をみると、民営化は避けられない状況である。筆者は、民営化に当たり英国方式の採用を提案する。英サッチャー政権が1989年、水道完全民営化に取り組む際、「民間会社は利益を追求するため、サービスの低下や料金値上げを招く」という懸念に歯止めをかける仕組みを以下のように完璧に備えた。
(1)水業務管理局(OFWAT)の創設。2年ごとのサービス調査や5年ごとの料金改定の審査、強制調査権を持つ。
(2)飲料水検査局(DWI)による飲料水の水質規制・指導
(3)国家機関でありながら消費者団体のような性格を持つ水道顧客審議会(CC Water)により、OFWAT、DWIの働きを監視し、行政指導を行う。
英国では、こうした仕組みをつくったうえで、2000以上あった水道事業体を21社にして完全民営化を達成した。
また、経済協力開発機構(OECD)は世界の水道民営化事例を調査してまとめた指針「公共アクションのチェックリスト」で官民連携の重要事項(28項目)を指摘している。これも参考になるだろう。
日本の特異性を加味せよ
日本の水道民営化については、英国方式とOECD指針から学ぶべきで、それに日本固有の事情(自然災害、地震、気候変動対応など)を加味し、制度設計に取り組むべきだろう。国は水道民営化に備え、監視、モニタリング、指導のできる公的機関を早急につくることである。一方、自治体にとっては水道事業アセット(施設、函渠、図面、施工図、人材、資金)などの実情を把握することが重要である。民間委託や民営化の失敗事例をみると、委託側(官側)から与えられたアセット情報が「いい加減で、実態と大きく乖離(かいり)」していたケースが多い。
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【プロフィル】吉村和就
よしむら・かずなり グローバルウォータ・ジャパン代表、国連環境アドバイザー。1972年荏原インフィルコ入社。荏原製作所本社経営企画部長、国連ニューヨーク本部の環境審議官などを経て、2005年グローバルウォータ・ジャパン設立。現在、国連テクニカルアドバイザー、水の安全保障戦略機構・技術普及委員長、経済産業省「水ビジネス国際展開研究会」委員、自民党「水戦略特命委員会」顧問などを務める。著書に『水ビジネス 110兆円水市場の攻防』(角川書店)、『日本人が知らない巨大市場 水ビジネスに挑む』(技術評論社)、『水に流せない水の話』(角川文庫)など。