【生かせ!知財ビジネス】戦時労働者訴訟での「標的」に 政府は特許の防衛を

韓国の康京和外相(右端)と会談する河野太郎外相(左端)。いわゆる徴用工訴訟の問題では双方の主張は対立したままだ=1月23日、スイス・ダボス(共同)
韓国の康京和外相(右端)と会談する河野太郎外相(左端)。いわゆる徴用工訴訟の問題では双方の主張は対立したままだ=1月23日、スイス・ダボス(共同)【拡大】

 韓国大法院(最高裁)が日本企業の賠償を確定させたいわゆる徴用工訴訟。既に日本企業70社が係争中で、被告となる可能性のある社は300近くといわれる。原告団は差し押さえ資産の対象として特許権など、日本企業が韓国で保有する知財を視野に入れている。

 日本の知財関係機関に現状、表立った動きはない。特許庁の総務・国際関係部門は「所管外の海外裁判所案件で静観するしかない状況だ」とする。日本と韓国にある日本側の公的知財相談窓口には日本企業からの相談は来ていないようだ。韓国のある有力特許法律事務所にも相談はないという。嵐の前の静けさか。

 原告が資産の差し押さえを行い、それらを現金化するには賠償額相当の資産を見つける必要があるが、対象が特許の場合は専門知識が必須となる。特許には特許権者本来の権利と特許権者が契約で第三者に許諾する専用実施権や通常実施権などがあり、権利範囲は異なる。特許の経済価値評価手法は複数あるため、評価額は一定ではなく、同じ特許権でも実施者の事業力で収益額は大きく変わる。ライバル企業の知財部門などが原告に手を貸すようなことにはならないだろうか。

 日本企業が裁判所の賠償命令を放置していると、重要特許が差し押さえられたり、多額の資金をつぎ込んだ特許が競売で二束三文に買いたたかれたりして、ライバル企業の手に渡ることにもなりかねない。製造した製品の販売や輸出入、ライセンス先の事業、サプライチェーンにも影響が出る。中小企業の場合は少ない特許で事業を支えており、企業存立に関わってくる可能性もある。知財を奪われた場合、問題の影響力は非常に大きいのだ。

 やはり何らかの防衛策を個々に打っておくことが必要だ。有識者からは「事業に直接影響のない特許を日本企業が提示し、連携する別の企業に賠償相当額で購入または落札させたらどうか」(国際弁護士)とか、「差し押さえ命令が出る前に重要特許群を資本関係のない友好先へ移転させては」(知財コンサルタント)という案が聞かれる。だが中小企業の対応力には一抹の不安が残る。

 韓国政府は動かない。日本政府は公的機関が日本企業の特許を一時買い上げてプールし、個別企業の権利を保全・管理するようなダイナミックな対策を打っても良いのではないか。(知財情報&戦略システム 中岡浩)