【太陽の昇る国へ】官製ベアより働き方改革見直しを 幸福実現党党首・釈量子

サラリーマンを取り巻く環境が大きく変わろうとしている=東京都内
サラリーマンを取り巻く環境が大きく変わろうとしている=東京都内【拡大】

 --2019年春闘について、今月13日に大手企業からの回答が一斉に示された

 今回、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を実施するものの、その上げ幅が前年水準を割り込むとする企業が相次いでいます。安倍晋三首相は、第2次安倍内閣の発足以降、デフレ脱却を図る一環として、労使交渉で政府が関与を行う「官製春闘」を主導してきました。18年春闘に至っては、賃上げ率「3%」と異例とも言える数値目標を掲げています。

 そもそも、賃金水準は労使間での交渉で決定されるべきものであり、むやみに政府が介入するのは「禁じ手」であるほか、そこには国家社会主義的な面があるというのは否めないでしょう。

 今年10月に予定されている消費税10%への増税や、米中貿易摩擦の長期化などを起因として、今後の経済情勢が不透明となっています。将来の固定費負担が増えるベアに慎重にならざるをえないとする経営者が多いのは、無理からぬことでしょう。

 経団連はこれまで、ベアに対して前向きに取り組んでいましたが、現会長の中西宏明会長は「官製ベア」に反発しており、今年1月に出された春闘の指針では、「賃上げは、政府に要請されて行うものではない」と明記されています。今、こうして「官製春闘」は見直しを迫られています。

 --こうした中、来月1日より、働き方改革関連法が施行されます

 働き方改革と聞こえは良いですが、これが意味するのは労働規制の強化です。規制緩和で経済を活性化しようとしている動きとは逆行しているのではないかと感じます。

 特に着目すべきは、時間外労働に対する規制強化です。これまで、36協定により労使間で合意がなされれば、いくら働かせたとしても、行政指導を受けることはあっても基本的に罰則を科されることはありませんでした。しかし、同法の施行で、時間外労働を年間最大720時間以内に抑えることが義務付けられ、これに違反すれば、企業側は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります。

 こうした一律の残業規制は、労使双方の不利益につながると危惧しています。

 厳格に残業規制がされると、年間50万円ほど所得が低くなるとの試算もあります。一番困るのは、年収300万~500万円の層の人たちです。残業代を家計のあてにせざるを得ない世帯は非常に厳しいところがあります。

 政府はベアを主導することでその分を還元しようとしているのかもしれませんが、時間外労働の上限規制により、残業代は最大で年8兆5000億円減少するとの試算もあります。所得全体が絞られることで、個人消費が一層停滞することにならないか心配です。

 一方、経営者の立場からすれば、規制強化で中小をはじめとした各企業が業務の支障をきたす可能性があります。

 地方の中小企業をいくつか訪問して実情を伺った際、経営者は「消費増税に加えて、『働き方改革』による規制強化は、人手不足に直面する中、本当に厳しい」「これ以上休日を増やさないでほしい。価格や納期で海外と競争している中小企業は、タガをはめられると、仕事の波に対応できなくなる」と悲鳴をあげていました。

 過重労働への対策は別途進める必要はありましょうが、働き方改革は全体としては不況をもたらし、日本を二流国へと突き落としかねないと危惧しています。中小企業へと適用範囲が広がる前に、同法の撤回を検討した方がよいのではないかと思います。

 最近では、厚生労働省が残業時間を抑制するという目的のもと、中小企業が新規従業員を雇用する際、最大で600万円を支給するという制度の導入を検討しているようです。働き方改革によって回ってきたツケを、税金で穴埋めしようとするのは言語道断と言わざるをえないでしょう。

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【プロフィル】釈量子

 しゃく・りょうこ 1969年、東京都生まれ。国学院大学文学部史学科卒業。大手家庭紙メーカー勤務を経て、94年、宗教法人幸福の科学に入局。常務理事などを歴任。幸福実現党に入党後、女性局長などを経て、2013年7月より現職。