【ワシントン=塩原永久】米政府が表明したメキシコからの全輸入品に対する関税措置に米産業界や議会が猛反発している。経済への影響が不可避なためで、米商工会議所は5月31日、発動を阻止するための法的手段を検討すると表明。与党・共和党幹部からもトランプ米大統領の手法を批判する声が噴出した。米国の通商問題をめぐっては、中国が1日、米国産品に対する追加関税率を引き上げており、金融市場にも動揺が走っている。
■トヨタ・GMらの団体も声明
同会議所のブラッドリー副会頭は「関税を課すのは間違った対応だ」との声明を出した。メキシコから米国への物品輸入額は昨年3465億ドル(約37兆5000億円)に達し、全輸入品への関税5%の上乗せにより企業と消費者に170億ドルの負担増になると指摘。「法的措置を含めたあらゆる可能性を模索する」と異例の厳しい対応を表明した。
トヨタ自動車や米ゼネラル・モーターズ(GM)など自動車大手でつくる米自動車工業会は声明で、「米・メキシコ国境の交易を妨げる障壁は米国の雇用や投資、経済発展を阻害する悪影響の連鎖を招く」と警告した。また、自動車メーカーが北米地域で築いてきた部品供給網(サプライチェーン)に、関税発動が及ぼす打撃に懸念を示した。
■「大統領の権限乱用だ」
一方、議会幹部は、関税発動を躊躇しないトランプ氏の姿勢に警戒を強めている。30日に声明を出した上院財政委員会のグラスリー委員長(共和党)は「大統領の権限乱用だ」と指摘。米政府やメキシコ、カナダが、北米自由貿易協定(NAFTA)を見直した新協定の批准に向けて動く中、「関税の脅しを実行すれば(批准の)議会通過を極めて危うくする」と述べ、トランプ氏に再考を促した。
米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、新協定の批准手続きの支障となることを恐れ、ライトハイザー通商代表ら一部の政権幹部が「対メキシコ関税をしないようトランプ氏の説得を試みた」という。
また中国政府は1日に年600億ドル分の米国産品への追加関税率を最大25%に上げる報復措置を発動した。米中の貿易摩擦も激しい対立局面に入っている。
31日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は前日比350ドル超値下がりし、2万5000ドルを割った。ドル円相場でも安全資産とされる円が買われ、一時1ドル=108円20銭台まで円高ドル安が進んだ。