海外情勢

カンボジア、美容で聴覚障害者自立支援 日本留学経験者が技術指導

 カンボジアの首都プノンペンで、日本への留学経験を持つ女性が美容サロンで聴覚障害者を受け入れ、技術指導して自立を促している。同国は近年、高い経済成長が続き、かつてぜいたくだった美容も身近なものになりつつある。障害者福祉への社会の関心を高め、雇用の裾野を広げることも目指している。

 4月末、プノンペン中心部にある「美サロン」は、朝から髪や爪、まつげの手入れに来た女性たちでにぎわっていた。経営する30代のカム・ケムラさんは2011年、小さなネイルサロンをオープン。髪などにサービスを広げ、著名女優やテレビタレントも来る人気店となった。

 ケムラさんは中部コンポントム州出身で、幼い頃からテレビで放映される日本のドラマなどが好きだった。日本への関心が募り、高校時代に1年間、奨学金を得て大阪に留学した。カンボジアで大学を卒業し、日本の病院のカンボジア進出に携わるため東京都内に滞在していた11年3月、東日本大震災が発生。人生観が変わった。かねて抱いていた、起業して困っている人を助けたいとの夢から、「自分のやりたいことを、存分にやってみよう」と思ったという。

 大学時代に美容サロンで働いた経験を生かし、帰国直後にネイルサロンを始めた。美容の技術を持ちながら別の業界で働く昔の仲間らに声を掛け、店の経営を軌道に乗せた。

 聴覚障害がある若者の支援に関わり始めたのは16年。非政府組織(NGO)の紹介で、研修生として店で受け入れた。「一見華やかな職場だけど、細心の注意が求められる」。最初は不安だったが、熱心に技術を学び、顧客の信頼を得ていく姿を見て「これなら大丈夫だ」と確信した。現在は20人ほどのスタッフのうち、聴覚障害者が8人。中部コンポンチャム州出身のスライリエプさんは2年以上働いており、他のスタッフとの手話を介して顧客と意思疎通する。常連の対応も任され、「いろいろな技術を学べて楽しい」と笑顔を見せた。

 地元メディアによると、人口約1600万人のカンボジアには重度の聴覚障害者が推計約5万人いる。大半は十分な支援を受けておらず、「この国で、障害者への理解はまだ足りない」とケムラさん。他の店でも働けるよう、美容の現場で必要な手話を動画にまとめ、広く共有することも考えている。(プノンペン 共同)

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