論風

“本庶発明”の教訓 知財裁判の改革を急げ (2/2ページ)

 経済再興の足掛かりに

 米中知財紛争は、知財が企業のみならず国家の安全保障や国際競争力の観点からも極めて重要になっていることを示している。日本が国際競争に勝ち抜くためには米中に負けずに、「知財を生む・育てる・守る」という知財立国運動を再興しなければならない。知財は無体財産なので裁判所で守ってもらえなければ無価値だ。知財をしっかり守る知財裁判の改革が必要だ。

 第1に、裁判所のアクセスを良くする。知財の役割が大きくなるとともに、知財紛争が増える。知財紛争が起きたら、当事者の話し合いに任せるだけでなく、裁判所に行って公平な判断を仰ぐように風土と手続きを変える。憲法32条は、国民の裁判を受ける権利を保障している。

 第2は、損害賠償額を引き上げる。裁判所による損害賠償額は、国家機関による知財価値の認定だ。

 高くなれば発明や創作のインセンティブが高まる。特許裁判の最高額を比較すると、米国は2844億円で、中国でも57億円になっているが、日本は17億円にすぎない。中国はさらに引き上げる方針だ(対象期間07~17年、特許庁調べ)。

 第3は、透明性を向上する。日本の知財裁判は分かりにくい。公開の弁論は準備書面の交換にすぎず、非公開の準備室で和解が勧められることが多く、不透明だ。中国では、既にインターネットで裁判を中継している。日本でもネット中継をすれば、国民の裁判に対する信頼性が高まる。

 裁判所が知財の価値を高く認定すれば、優秀な若者が発明に身を入れ、ベンチャー企業を起こしてくれる。スポーツと同じく報酬金が高くなれば優秀な人材が集まる。日本人の創造的能力を発揮し、良い発明を生み出し、文明に貢献すること、これは日本経済の再興につながる有効な成長戦略だ。

【プロフィル】荒井寿光

 あらい・ひさみつ 東大法卒、ハーバード大大学院修了。通商産業省(現経済産業省)入省、特許庁長官、通商産業審議官、初代内閣官房・知財戦略推進事務局長、世界工業所有権機関政策委員を歴任。退官後、日本初の「知財評論家」を名乗り知財立国推進に向けて活動。著書に「知財革命」「知財立国」。75歳。長野県出身。

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