専欄

香港を中国民主化のモデルに

 香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が「逃亡犯条例」改正案を正式に撤回すると発表した。もっとも同案の撤回は、デモ参加者が求めている「5大要求」の一部にしか過ぎず、今回の表明で香港市民の抗議が収束するかはなお、不透明だ。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 林鄭長官は、政府と市民との対話の枠組みや社会問題を討議する専門家委員会の設置などにも言及した。この際、香港政府は、デモ参加者と膝を交えて対話し、香港の民主化に向けての道筋を作るべきである。さらに中国指導部は、香港の成果を中国本土の民主化の「モデル」にしていくだけの度量と柔軟さを示すべきではなかろうか。

 今後、間違っても軍や武装警察を投入してはならない。1989年の天安門事件の再来となれば、97年の香港返還時に中国指導部が約束した「一国二制度」(50年間は資本主義を採用し、社会主義の中国と異なる制度を維持すること)は完全に崩壊してしまおう。

 それだけではない。ここまで発展してきた中国経済にとっても、決定的なダメージを与えよう。70年代末からスタートした改革開放政策を推進していくうえで、香港がどれだけ重要な役割を演じてきたか。武力鎮圧の手段を取れば、香港が果たしてきた金融面などの機能は崩壊してしまう。

 隣接する深セン(広東省)がイノベーション都市として発展めざましいが、それも香港や広州(同)など周辺都市との相互連携があってのことだ。香港がなくなっても深センさえあれば大丈夫、というのはあり得ない話である。

 中国指導部は、香港市民の民主化への願いが強いことをしっかりと受け止めるべきである。中国返還後の政治・経済体制を定めた香港基本法では、香港政府トップの行政長官について「指名委員会が民主的手続きで指名し、普通選挙で選ぶのが最終目標」と定めている。この出発点を忘れてはならない。

 中国全国人民代表大会(全人代)は2017年の長官選挙から普通選挙を導入するとの案を示したが、その内容は「民主的手続き」とはほど遠いものだった。これに抗議して14年に「雨傘運動」が起きたのは周知の通りである。

 香港の民主化は、中国本土の民主化ともつながっていく。本土でも民意の向上はめざましく、少なくとも民主化に向けての段取りは提示できるはずだ。中国指導部にとって、今は危機ではなく、民主化と正面から向き合うチャンスなのである。

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