人間が生きていくうえで欠かせないものの一つに「塩」がある。東南アジアのタイでは、地層に現れた岩塩を採掘する以外に、海水を塩田に引き蒸発させて塩を採る天日製塩の手法が受け継がれてきた。
極端に雨が少なくなる例年11月から翌年4月にかけての乾期がその最盛期で、毎年この時期になるとバンコク西方の海岸沿いでは家族総出の塩作りが今も行われている。工場での生産によってその数も少なくなったとはいえ、いまなお当地に伝わる伝統産業でもある。それが今年は空雨期によって、例年では見られない雨期の塩作りが行われていると聞いた。8月上旬、現地を訪ねた。
降雨量月100ミリ以下
タイ湾に注ぐターチン川に近い塩田では、真っ青な青空の下、製塩農家の人たちがグラウンドの整地に使う日本のトンボに似た農機具を使って作業に励んでいた。
日本人の観光客もまれに訪れるらしく、「コンニチワ」と日本語の挨拶。「今年の塩の出来はどうですか」と尋ねると、「まずまずだ」との答え。「今年は雨が少ないから、こんな時期でも製塩ができて助かるよ」と製塩農家のピムさんは教えてくれた。
タイで天日製塩の方法が導入され始めた正式な時期は分かっていない。だが、農業協同組合省の資料に、19世紀末にはバンコクから西20~40キロのところにある現在のサムットサーコーン県やサムットソンクラーム県の海岸一帯で大規模な塩田が整備され、ここから塩が採れたとの記録がある。