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日米貿易協定、米専門家は「TPPマイナス」の見方 状況痛み分けか

 日米両政府が署名した新たな貿易協定について、米通商専門家の評価は、米国の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)離脱による米側の損失を「埋め合わせ」しただけだとの突き放した見方が多い。日本による農業市場開放もTPP未満の水準にとどまり、恩恵から取り残された米産業界は今後、米政府に包括的な対日協定の締結を急ぐよう圧力をかけるとみられる。(ワシントン 塩原永久)

 日米が痛み分け

 新協定で日本は米国産牛肉の関税を引き下げる。昨年末のTPP発効で米国産は、日本市場でオーストラリアなど競合国に出遅れたが、日本はTPP参加国並みに米国からの市場アクセスを改善する譲歩をした。

 だが、米戦略国際問題研究所(CSIS)のグッドマン氏は、協定内容が「TPPマイナス」と評価する。TPPで日本から譲歩を勝ち取ったコメの無関税輸入枠は今回導入が見送られ、米産業界から要望が強かった製薬や金融分野などは対象外となったためだ。

 一方、工業品で「守り」に回った米国が、TPPでは認めた自動車・同部品の市場開放を拒んだ。米政府高官から「TPPで払ったほどの代償を払わずに済んだ」と誇る声も聞かれる。農畜産物と工業製品それぞれで日米がTPP未満の譲歩をしたという認識が米通商関係者に広がっている。

 貿易不均衡は変わらず

 もっとも、トランプ氏が2017年1月の政権発足直後にTPP離脱を決めたことへの批判的な見方は根強い。

 ピーターソン国際経済研究所のショット氏は、日米協定が「大統領の向こう見ずなTPP離脱で放棄した利得を部分的に回復するものでしかない」と強調。日本で既に豪州産牛肉がシェアを伸ばし、乳製品では経済連携協定(EPA)を結んだ欧州連合(EU)が存在感を増しており、多国間協定の枠外にある米国の失地回復は容易ではない。

 また「米ドルの上昇も米輸出業者が外国勢と競争するのを困難にする」(ショット氏)とされ、トランプ氏は引き続き巨額の貿易赤字削減を優先課題とすることになりそうだ。ライトハイザー米通商代表は次の段階で目指す包括的な対日協定が「自由貿易協定(FTA)」と明言している。

 自動車関税の確約なし

 日本が1年に及ぶ対米交渉の焦点とした、米政府による輸入車への高関税措置の回避では、日本が「米国から確約をとることに失敗した」(グッドマン氏)。日米は9月下旬の共同宣言で「曖昧な約束」(ショット氏)に終始したと指摘され、関税発動を交渉カードとして手放さないトランプ氏の姿勢が、今後の包括協定に向けた協議に影を落としそうだ。

 一方、日米によるデジタル貿易協定は、国境を越えた自由なデータのやりとりを確保する点などが好意的に評価されている。

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