「外国人から『日本では作れないだろう』とバカにされた」
福岡県篠栗町の機械メーカー「松本システムエンジニアリング」の松本良三社長(73)は数年前、欧州の林業関係者から日本の林業機械が遅れていると指摘された。このときの悔しい思いが開発の原動力となったのが、同社が今春から販売を始めた高性能林業機械「トリケラ」だ。
ショベルカーのアームに取り付けて使うトリケラは、伐採された木の幹を4本のツメで抱え込んで枝払いする機能を持ち、ヒノキやマツのような堅い木でも扱える。木の幹を歯車で送り込んで枝を払うローラー機能と、ローラー機能では払えない大きな枝をカッターで切断するストローク機能を一体化させた点が特徴だ。
昨年11月の国内展示会でデモ稼働させた際には、視察に訪れた欧州のメーカー関係者らが驚きの声を上げた。同社がトリケラで示した“逆襲”は、欧州企業に見劣りしない日本企業の林業機械分野での実力のあらわれだ。
民有林集約進まず
しかし日本の林業にはインフラや法整備、規制などの面で課題が残っている。懸案の一つが、国内森林の約7割を占める民有林の集約化が進んでいないことだ。これが林道整備の遅れにもつながっている。
なかでも盲点となっているのが林道の車両荷重だ。林道を走るトレーラーは重機や丸太を載せるとすぐに10トン単位で重くなる。しかし険しい山が連なる日本の山間部にかけられた橋は最大でも約25トンの重さに耐えられることしか求められておらず、重くなりがちな車両に対応できていない。
これに対してオーストリアの林道の車両荷重は50トンまでで、大型重機が入ることで生産性を上げることができる。同国の木材生産のコストが日本の半分程度である理由の一つだ。自然条件が異なるので単純比較はできないが、国内では大型機械に対応できる林道がまだ少ない。
ベンチャーと融合
一方、林業ではソフト面で新しい風を吹き込む試みが始まっている。
9月27日、東京都内で造林事業ビジネスのアイデアを具体化するプロジェクト「サステイナブル・フォレスト・アクション」の初会合が開かれた。公募で集まった林業関連従事者23人、ITやメーカーなどの異業種の人材40人が、合宿や実地研修で議論を深めて12月上旬までに事業化プランを策定。最優秀賞には事業開発費用に100万円が支給される。
このプロジェクトを発案したのは、ITや最新技術の活用に重点を置いた「スマート林業」を推進する林野庁の若手職員。異分野のノウハウを組み合わせて新しいビジネスモデルを生み出す「オープンイノベーション」の手法を政府が導入したのは林業に関する危機感の裏返しともいえる。
運営担当のビジネス・エンジニアリング・センター(東京都中央区)の中間康介理事は「林業には投資的な資金が入っていない可能性はある。想定以上に人が集まった」と手応えを語った。国内林業が変化しようとしている。
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この連載は山本雄史が担当しました。