海外情勢

カンボジア、旧救国党勢集結に備え 政敵の「9日帰国」宣言で厳戒

 カンボジア内務省は10月末、国内各州の知事に対し、反政府活動家の動きに警戒し、11月9日に向けて厳戒態勢を敷くように指示した。カンボジア地元紙が伝えている。解党された最大野党勢力「カンボジア救国党」の創設者であるサム・レンシー氏が、亡命中の外国から9日に帰国すると宣言。救国党勢力の集結を呼び掛けているとされており、緊張が高まっている。

 ◆関係者ら45人逮捕

 9日はカンボジアの独立記念日であり、続く10日からの3日間は、雨期明けを祝う「水祭り」で連休となる。多くの人たちが休暇で移動し、とりわけ首都プノンペンには、地方からたくさんの人たちが王宮前で繰り広げられる伝統のボートレースを見学に訪れるため混雑する。

 プノンペン・ポスト紙やクメールタイムズ紙によると、サム・レンシー氏はフェイスブックを通じて、9日に、海外に住むカンボジア人や国際社会の支持者とともにカンボジアに戻ると宣言したという。9日のいつ、どこから、どのように戻るかなど詳細は語られていない。また地元紙によれば、サム・レンシー氏は国内にいる元救国党員や支持者たちにも集結するよう呼び掛けたという。

 この動きを受けて内務省と警察は、元救国党関係者を中心に事情聴取や監視をしているもようで、プノンペン・ポストによれば10月27日までに45人を逮捕し、今後も55人について逮捕状を待っているという。また、事情聴取で既に143人が「サム・レンシー氏による反逆計画に関わった疑いで訴追されたが、司法当局に積極的に協力することを約束して釈放された」としている。

 内務省の通達を受けた州の中には、独立記念日と水祭りの連休にもかかわらず、職員を出勤させて警戒に当たるよう指示するところもある。クメールタイムズによると、特にタイと陸地の国境を接しているバンテイミエンチェイ州では州職員に対し、11月13日まで休暇を返上して持ち場に残るよう指示が出ている。

 カンボジアの与野党対立は、2013年の総選挙が一つのきっかけとなった。この選挙で、サム・レンシー氏率いる救国党は「現状を変えたい」と考える若者や労働者層を中心に支持を広げ、フン・セン首相の与党「カンボジア人民党」と大接戦を演じた。

 結果は、123議席のうち、人民党は68議席(前回選挙から22議席減)、救国党は55議席(同26議席増)を獲得。内戦終結後、長く続いていた「与党独り勝ち」の時代が終わり、二大政党制が実現するかにみえた。しかし、救国党側は選挙に不正があったとして結果を受け入れず、政治は膠着(こうちゃく)状態に陥った。

 そして5年後の18年総選挙を前にした17年9月、フン・セン政権は救国党の当時の代表であったケム・ソカー氏を国家反逆の容疑で逮捕。同11月に救国党は最高裁判所により解散を命じられ、同時に同党主要党員118人の5年間の政治活動の禁止も命じられた。このとき、サム・レンシー氏は逮捕を逃れるために既に海外にいたが、同党幹部たちも国外に逃れ、国際社会にカンボジアの民主化への支援を求める活動を続けた。

 ◆競争力低下の恐れ

 最大野党の解党により、18年の総選挙は与党・人民党が国民議会125議席全てを独占し、圧勝した。しかしフン・セン政権による野党勢力の抑圧は国際的な非難を浴びた。

 中でも欧州連合(EU)は、カンボジア政府による野党勢力の弾圧と人権抑圧を理由に、カンボジアからの輸入品に付していた特恵関税制度の撤廃を検討している。EUは、カンボジアの主要産品である縫製・製靴品の最大の輸出先である。フン・セン政権は「特恵関税制度はいずれにしても将来撤廃されるものだ」と強気の姿勢だが、産業界からはその影響を懸念する声が上がっている。

 カンボジアは11年以降、毎年7%前後の経済成長率を維持している。政府は経済発展の柱の一つとして海外直接投資の積極的な誘致を掲げ、さまざまな優遇政策を打ち出した。優遇策に加え、カンボジアが投資先として注目されたのは、政情安定と低賃金の労働力があるからだった。

 しかし、13年の選挙以降、フン・セン政権は労働者層の取り込みに力を入れ、最低賃金は毎年大幅に上昇している。このうえ、与野党対立や民主化要求による政情不安に陥れば、カンボジア経済の国際競争力は格段に落ちる恐れがある。

 18年の総選挙前から、自由な雰囲気が消えたカンボジア国内のメディアでは、連日のように治安維持強化を訴える記事や社説が掲載されている。サム・レンシー氏が帰国するのか、あるいは断念するのか。政権と救国党勢力との「駆け引き」が続いている。(カンボジア邦字誌「プノン」編集長、木村文)

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