絶滅危惧種コツメカワウソの国際取引が26日から原則禁止となる。日本では愛らしいしぐさで人気が沸騰した一方、密輸も相次いだ。タイは“供給国”の一つで、飼育したカワウソの売買も多いとされる。素性を知らない者同士が会員制交流サイト(SNS)で密売ネットワークを築き、捜査を難しくしている。
1匹100万円に高騰
「自分で箱に詰めて客に送った。間違いない?」。取り調べに20代の男は力なくうなずいた。
捜査当局は10月下旬、南部パッタルン県でコツメカワウソ計18匹を密売しようとした疑いで、この男ら2人を逮捕した。タイでも無許可の売買や所有は違法だが、ペットとしての需要は高い。
当局は男が営む衣料品店を捜索。段ボール箱に押し込められているのを見つけた。1匹の売値は3500バーツ(約1万2600円)。11匹が目も明かない子供だった。
カワウソは数年前まで首都バンコクの市場でひそかに売られていた。日本では1匹100万円といわれるほど高騰し、密輸が相次いだため当局が監視を強化。今は「麻薬を売るより難しい」(市場関係者)状況で、SNSでの売買が主流だ。
今回はフェイスブック(FB)上のやりとりを端緒に、客を装って情報を収集し、逮捕にこぎ着けた。ただ国立公園・野生動物・植物保全局の係官は「全容解明には程遠い」とやや不満げだ。
男はSNSで直接面識がない「客」から依頼され、同様に面識がない「仕入れ先」に呼び掛けて調達した。大半をバンコクに運ぶ予定だった。
そこから海外に転売されていた可能性もあるが、密売ネットワークのつながりは緩い。SNSは偽名で使われる場合が多く、捜査は壁にぶつかる。
どこかに飼育場が…
カワウソはタイ南部に生息する。ナコンシタマラート県では、魚目当てに養魚池にやってくる。だが50代の近隣住民、サンティさんは「昔に比べ見掛けなくなった」。宅地化ですみかが奪われているからだという。
そのためか、野生でなく「飼育モノ」も出回る。保全局のプラキット副局長は「秘密の繁殖場があるはずだが、突き止められない」と話す。
「カワウソ飼い主の会」と称するグループがFBにあった。やりとりを重ねると「飼育モノ」を扱っていると認めた。隣国マレーシアで育て、2500バーツで売るという。
希少動物の違法売買の最高刑を禁錮4年から10年にするなど、タイ政府は対策強化に血道を上げる。このグループに不安はないか尋ねたが、気に留めていなかった。返信には「当局が知らない売買は山ほどある。密売は撲滅できない」と書かれていた。(ナコンシタマラート 共同)
【用語解説】コツメカワウソ 主に東南アジアの湿地帯や河川にすむ。体長40~60センチ程度。生息地の環境破壊や密猟で数が減り、国際自然保護連合はレッドリストで絶滅危惧種に指定。日本ではインターネットの動画が人気を博し「カワウソカフェ」ができるほどのブームになった。環境団体トラフィックによると2015~17年に東南アジアでの密輸取り締まりで保護されたカワウソ59匹のうち32匹が日本向けだった。今年8月のワシントン条約締約国会議で国際取引が原則禁止となり、日本国内の取引も規制される。
(バンコク 共同)