独りよがりな政策のツケが回ってくる
また今年9月にはサウジアラビアの石油施設がドローンにより攻撃を受け、アメリカはイランの行動であるとして制裁のさらなる強化に向かっている。
中東にトランプのアメリカ・ファースト政策の限界を見、アメリカのさらなる威信の失墜を見る。アメリカはペルシャ湾、ホルムズ海峡地域の航行の安全を監視するための有志連合構想を提起したが、これは一層の緊張を喚起することになるだろうし、まかり間違えばイランとの軍事衝突につながっていく懸念もある。
確かに自国のタンカーは自国が守れ、というトランプのツイートは正しい問題指摘かもしれない。しかしホルムズ海峡をめぐる緊張はアメリカがイランとの核合意から一方的に撤退したところから始まっており、果たしてアメリカの呼びかけに応えて有志連合に加わる国がどれほどあるのだろうか。独りよがりな政策のつけは、アメリカの指導者としての一層の威信低下につながりそうだ。
そして、米中関係の悪化、米中貿易戦争の長期化は、これまでアメリカを中心に構築されてきたリベラルな国際秩序の崩壊につながる契機にもなる。
シリコンバレーで見た「力の根源」
これからアメリカはどうなってしまうのか。このまま世界のリーダーの座を失うことになるのか。外交官時代、これまでも何度もアメリカは終わった、もう駄目だと思う時代があった。しかし、鉄鋼が下火になれば自動車産業が、自動車が衰退すればITや金融産業が成長し、いまはAI(人工知能)の時代だと言われている。こういった技術革新で危機を乗り越えてきたのがアメリカだ。
私は総領事としてサンフランシスコに駐在したとき、シリコンバレーに何度も足を運んだ。シリコンバレーは、アメリカの経済から一歩先を行く場所だ。シリコンバレーに行けば、アメリカの未来が見えてくる。街に勢いを感じたこともあるし、瀕死のように思えたときもあった。しかしシリコンバレーは、何度も画期的な技術革新によってダイナミックに回復してきた。トランプの政策が進めば、アメリカという国が持つこういった力の根源を失うことになりかねない。
移民を排除すると、アメリカは「終わる」
アメリカが何度でも立ち上がることができるのは、彼らが常に競争のなかで生きてきたからだ。中国は膨大な人口のなかから優秀な人材を見つけ出す。だが、アメリカでは厳しい競争のなかから人材が頭角をあらわす。移民がどんどん押し寄せるアメリカでは、国民は常に競争にさらされ、そこを勝ち抜くための教育を受ける。そのためのシステムが出来上がっているのだ。