海外情勢

中露の蜜月、象徴するパイプライン稼働 「準軍事同盟」エネも協調

 【モスクワ=小野田雄一】ロシアの東シベリアから中国に天然ガスを輸出する両国間で初のガス・パイプライン「シベリアの力」がこのほど稼働した。世界屈指の天然ガス生産量を誇るロシアだが、従来の輸出は欧州向けが大半だった。「シベリアの力」は、欧米との関係悪化を背景に、ロシアが経済や軍事など各分野で中国と結束を強めていることを象徴する事業だ。

 2日に操業を始めた「シベリアの力」は、東シベリア産のガスを極東アムール州経由で中国の黒竜江省に運ぶ。ロシア国内のルートは全長3000キロに及ぶ。ガス売買の契約期間は30年で、年間最大380億立方メートルのガスが輸送される。

 中露が8年越しの交渉を経て、このパイプラインの建設に合意したのは2014年5月だった。ロシアが同年3月、ウクライナ南部クリミア半島を併合して欧米に経済制裁を科されたことが交渉に弾みをつけた。

 プーチン政権は欧米の経済制裁が拡大することを警戒し、中国などアジア諸国との関係を重視する「東方シフト」にかじを切った。「シベリアの力」はその象徴的な事業だとされた。

 ロシアは伝統的に欧州方面を主要なガス輸出先としており、ウクライナを経由するソ連時代からのルートや、バルト海底のパイプライン「ノルドストリーム」でガスを輸出している。「ノルドストリーム2」やトルコを経由する「トルコストリーム」も近く完工する見通しだ。

 しかし、露経済紙ベドモスチによると、欧州のガス需要は増加傾向にあるものの、ロシアからの輸入は減少している。欧州諸国がエネルギー安全保障や価格の観点からガス調達を多角化しているからだ。

 ノルドストリーム2をめぐっては、米国が「ロシア依存リスクを高める」と欧州諸国に警告し、事業に参加する欧州企業への制裁も検討している。米国には、自国産の液化天然ガス(LNG)の欧州向け輸出を増やしたい思惑があるとされる。

 こうした状況で、プーチン政権が「シベリアの力」にかける期待は大きい。

 近年の中露両国は「準軍事同盟」と称されるほどに関係を深め、米欧への対抗姿勢を鮮明にしている。今年7月には、中露の爆撃機などが日本海上で初の合同パトロール飛行を行い、露軍機が竹島(島根県隠岐の島町)周辺の日本領空を侵犯した。ロシア国内の軍事演習には2年連続で中国軍が参加している。

 その一方、ロシアにとっては、中国との関係が深まるほど、ロシアが中国の「弟分」として埋没する危険性がつきまとう。

 「シベリアの力」をめぐっては、ロシアが弱みを抱えた状況で契約が結ばれたため、ガス価格などでロシア側が大幅に譲歩した可能性が指摘されている。

 4日付のベドモスチ紙は、事業の採算性に疑問を投げかけつつ、「14年はロシアが兄(庇護者)を必要とした時期だった」とし、政治的な思惑がパイプライン建設につながったと分析した。

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