海外情勢

崖のひつぎ、風前のともしび フィリピン、キリスト教普及で消えゆく伝統

 フィリピン北部ルソン島の山中に住む少数民族イゴロットには、崖の斜面にひつぎを置く風習がある。故人が安らかに眠れるよう、亡きがらを高所に置いて動物に荒らされるのを防ぐ目的という。キリスト教の普及とともに教会の共同墓地への埋葬を望む人が多くなり、長く続いた伝統は風前のともしびだ。

 イゴロットが多く住む山あいの村サガダ。イゴロットの村議、ハイメ・ドゥガオさんによると、この風習は2000年以上前に始まったと伝えられている。「先人たちは、故人が安らかに眠れるよう工夫してきたんだ」。崖の斜面に穴を開けて複数の木柱を挿し、その上にひつぎを乗せてひもなどで固定。一帯では切り立った崖のあちこちにひつぎがある。

 灰色や茶色の木製ひつぎが多く、岩肌の色に溶け込んで遠目ではすぐに分からないものも。直近では2010年に置かれたという。「天国に少しでも近づけるよう高い所に置く」との説も流れたが、ドゥガオさんは「もともとイゴロットに天国や地獄の概念はない」と否定した。

 かつて外部の人は崖に近づかなかったが、1970年代に珍しい光景を見ようと観光客が訪れるようになった。「ハンギング・コフィン(つるされた棺おけ)」との呼び名が定着し、崖によじ登ってひつぎに触ったり、傷つけたりする人も現れた。イゴロットの間に戸惑いも広がった。

 イゴロットのレオナルド・バトナグさんは「訪れる人には正確に理解してほしい」と20年以上前にガイドを始めた。「山奥の奇習と見られるかもしれないが、少数民族の伝統を尊重してくれたらうれしい」。控えめな笑みを浮かべた。(サガダ 共同)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus