「弾圧なんてない」
教授拘束事件の衝撃が冷める間もなく、中国の「怖さ」を感じさせる出来事が新たに起きた。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した中国政府の内部文書に基づき、監視カメラや顔認証システム、人工知能(AI)などの先端技術を利用して多数のウイグル族を「要注意人物」と決めつけ、裁判を経ずに「職業教育訓練センター」と称する収容所に送り、中国化教育を強要している-と広く報じられたのだ。
中国政府によるウイグル弾圧をめぐっては、国連人種差別撤廃委員会が昨年8月、テロ対策を名目に100万人以上が強制的に収容されていると指摘。民族的に近いトルコのほか、ポンペオ米国務長官も「中国は宗教や民族の独自性を消そうとしている」と厳しく批判してきた。
ICIJの報道前に催された交流合宿でも当然、このことが話題になった。
だが、中国側の反応は「弾圧なんてありません。監視カメラのおかげで新疆ウイグル自治区の治安はとても良くなりました。今はもうテロの心配もなく、安心して旅行が楽しめます」とあっけらかんとしたもので、あまりに大きな認識の違いに私は愕然(がくぜん)としてしまった。
6月の日中首脳会談で確認されたように、中国は今や多国間主義と自由貿易の擁護者となり、さらには世界の平和と安定に貢献する-との意欲をみせている。しかし、中国を“協力して国際秩序を担うパートナー”として迎えようとする日本政府の姿勢と、中国の印象を「よくない」と答える日本人の意識の間には簡単に埋められない溝がある。