中国を読む

経済大国と発展途上国の二面性 貪欲なまでに「生活の質」を追及する“14億の人々”

 清華大学・野村総研中国研究センター 川嶋一郎

 日中関係が冷え込んでいた頃は、微小粒子状物質「PM2.5」や「シャドーバンキング(影の銀行)」をはじめ、中国のマイナス面がよく話題に挙がった。両国の関係に雪解けの兆しが出てくると、スマートフォン決済の普及や深セン(広東省)を中心とするイノベーションなどが注目されるようになった。

 1人当たりGDP70位

 中国経済は米国に次ぐ世界第2の規模になったものの、1人当たり国内総生産(GDP)は世界70位前後にとどまっている。ランクはアルゼンチン、ロシア、マレーシア、メキシコといった国々より低い。中国の国土は日本の約25倍、人口は約11倍。内陸部や農村部はもちろんのこと、北京、上海などの沿岸大都市であっても、「発展途上」の側面があちらこちらに垣間見える。「経済大国」と「発展途上国」の二面性が混在するがゆえに、「これはすごい!」と感心することもあれば、「まだまだ遅れている」と感じる状況もある。本稿では、「経済大国」と「発展途上」が併存する中国について、「市場規模の大きさ」と「伸びしろの大きさ」という切り口から考えたい。

 中国のGDPは2010年に日本を抜いたが、国際通貨基金(IMF)のデータでは18年には13兆3681億ドル(約1452兆円)となり、日本(4兆9718億ドル)の2.7倍まで拡大している。「経済成長率が鈍化している」と言われるものの、17年から18年のGDP増加分は1兆3058億ドルに上り、スペインやオーストラリアのGDP(それぞれ1兆4275億ドル、1兆4200億ドル)に近い。

 中国は圧倒的な市場規模を有することで、企業に対して、短期間で経験を蓄積できる環境を提供している。その典型は高速鉄道であろう。中国各地を結ぶ高速鉄道網の総延長距離は19年末には3万5000キロに達するといわれている(日本の新幹線は約3000キロ)。中国では飛行機の国内線がよく遅れるため、最近は着実な移動のために飛行機を避けて高速鉄道を利用する日本人ビジネスマンも多い。北京-上海間では時速350キロでの走行も始まっているが、大きな事故や遅延もない。

 中国はまた、「変化のスピードが速い」とよく言われる。数年前まであれだけ取り上げられた北京のPM2.5だが、ここ1~2年、快晴の日が格段に増えている。また、過去5~6年は、スマホによる各種サービスの浸透が人々の生活を大きく変えていった。ネットショッピング、スマホ決済、タクシー配車、鉄道・ホテル予約、出前・宅配、シェア自転車…などだ。

 モバイルインターネットによる新サービスが一気に普及したのは、経済成長によって豊かになった中国の庶民が旧態依然とした質の低いサービスに辟易(へきえき)していた中で、利便性の高いサービスが次々と打ち出されたからだ。逆に言えば、中国の消費者はそれまでの既存サービスに対して不安、不満を抱えていた。産業や企業のレベルが生活水準の向上速度に追い付いていなかったわけだ。アリババグループや騰訊(テンセント)のサービスによって中国消費者の不安、不満が全て解消されたわけではなく、生活の質の向上に対するニーズはますます高まっている。

 社会構造も急速変化

 中国の変化の大きさ、速さは生活面での現象にとどまらない。社会の構造変化も急速に進んでいる。図は日本と中国の大学・短大進学率の比較である。17年の中国の大学進学率は45.7%で、日本の1990年代中盤に近い状況にある。このペースでいけば、今の10代は「2人に1人が大卒」となるだろう。20代の大学進学率は33%程度で、30代だと約16%、40代は約5%、50代では2~3%と、世代間のギャップが大きい。世代ごとの学歴の違いは価値観やライフスタイルにも少なからぬ影響を与えている。

 「経済大国」としての市場規模の大きさは企業の経営管理や技術レベルの向上を短期間に可能にし、「発展途上国」としての伸びしろの大きさが存在するがゆえに、最新技術や新たなライフスタイルへのキャッチアップもスムーズである。それを実現させているのは、生活の質の向上を貪欲なまでに追及する14億の人々である。

【プロフィル】川嶋一郎

 かわしま・いちろう 清華大学・野村総研中国研究センター理事兼副センター長。早大第一文卒。1991年台湾淡江大学法学修士。92年野村総合研究所入社。台北支店長、野村綜研(上海)咨詢社長などを経て、2018年4月より現職。55歳。静岡県出身。

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