高台から見渡す限り、地表は灰色に覆われている。異様な光景だが、土や草木に付着した放射性物質の飛散を防ぐため、モルタルで覆ったのだという。この結果、多くのエリアに防護服なしで立ち入れるようになった。今回の訪問時も靴と靴下は構内通行用に履き替えたが、大半の視察場所はマスクや軍手程度、あるいはそれも必要ないエリアもあった。
この高台から原子炉建屋までは100メートルほどしか離れていない。約15分たった頃、最前列で見学していた私の線量計が、取材団で最初に「ピーピー」と音を発した。線量が20マイクロシーベルトに達したことを示す音である。
医療機関での胸部X線撮影は1回100マイクロシーベルトほどだから、20というのは健康に害を及ぼす数字ではないことは分かっているが、思わず後方に退いた。
高台エリアの南側を所狭しと埋め尽くしているのが、高さ10メートルほどある円筒形の処理水の貯蔵タンクである。処理水は燃料デブリに触れた汚染水からセシウムなどの放射性物質を取り除き、濾過(ろか)できないトリチウムが残った水である。
タンクは991基、117万6千トン(今月12日現在)ある。東電担当者は「タンクを減らしたい。廃炉作業のスペースや、燃料デブリ(事故で溶けた核燃料)を一時保管しておく場所が必要だ」と話す。