【第29回地球環境大賞(4-4)】
国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)が、スペイン・マドリードで12月2~15日まで開催されました。気候変動対策の野心の引き上げや、パリ協定の運用ルール(ルールブック)の一部をめぐって意見が対立し、本来の日程を2日延長しての厳しい交渉が展開されました。(WWFジャパン 自然保護室 気候変動・エネルギーグループ長 山岸尚之)
COP25の位置づけ
COP25には大きく2つの役割が期待されていました。
1つは、パリ協定のルールブックの中で合意できていない残りの部分について合意すること。ルールブックは、2018年末にポーランドで開催されたCOP24でおおむね合意されました。残されたルールのうち、一番大きなものが、パリ協定6条に含まれる「市場メカニズム・非市場メカニズム」に関するルールでした。
もう1つの役割は、「野心(ambition)の強化」に向けたメッセージを出すこと。各国がすでに提出している国別目標(NDC)では、パリ協定が掲げる“1.5℃目標”や“2℃目標”は達成できない状況でした。そこで、削減目標を含む気候変動対策強化の呼びかけを、COP25として出せるかどうかが注目されました。特に重要なのは、2020年に各国が再提出することになっているNDCについて、引き上げを呼びかけることができるかどうかでした。
残った「ルールブック」議題
パリ協定を実際に運用する際に必要となる細かいルール(ルールブック)の中で、残された課題でもっとも大きな「市場メカニズム・非市場メカニズム」に関するルール。パリ協定では、この分野が第6条に規定されているため、略して「6条」とも呼ばれています。
市場メカニズム・非市場メカニズムをめぐる議論については、専門的な論点が多いため、詳しい解説は次号に譲ります。
主要な争点としては、市場メカニズムの利用をするにあたり、同じ削減量を2カ国以上の国でカウントしてしまう「二重計上(ダブルカウンティング)」を避けるための相当調整と呼ばれる仕組みの導入や、京都議定書からの削減クレジットをパリ協定でも使えるようにするのかどうか-などがありました。
最終的には、国々の対立の溝を埋めることはできず、2020年のCOP26に合意は持ち越されました。
ほかの議題としては、2031年以降の削減目標の目標年を2035年にするのか2040年にするのかを決める「共通のタイムフレーム」や、損失と被害に関する資金支援の仕組みを整えるのか否かといったことなどがありました。
前者については、議論は完全に先送りになり、後者については、事実上、今後の検討課題という形になりました。
「野心の大幅な強化が必要」
2019年も世界各国で気象災害が多発し、気候変動は「気候危機」や「気候非常事態」といった表現で呼ばれるようになりました。また、2018年から学校ストライキを続けていたスウェーデンの高校生の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの活動に触発された世界中の若者が、気候変動対策を訴えるストライキやマーチを行い、「未来のための金曜日」運動へと発展していきました。
こうした世界の危機感と若者の声の台頭はCOP25の会場にも色濃く表れ、特に「若者」を代表するNGOや団体はCOP25の会場の内外でこれまでにない存在感を放っていました。トゥーンベリさんが会場に来た時も、COP24の時とは比べものにならないほどの注目を集め、行く先々で人だかりができていました。
今回のCOP25は、世界で高まる危機感と、若者たちに代表される気候変動対策強化の声に応えることが求められていました。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長はCOP25の開会スピーチで、「各国は、パリ協定の下での約束を誠実に守るだけでなく、野心を大幅に強化することが必要だ」と呼びかけました。議長国チリのシュミット環境大臣もCOP25を「野心のCOPにしたい」と述べていました(COP25は会場がスペイン・マドリードに変更されたが、議長国はチリで変わらず)。
「野心強化」に向けた気運を盛り上げるため、2019年9月に国連事務総長主催で気候行動サミットが開催され、議長国チリの主導で野心のための気候同盟(Climate Ambition Alliance)が結成されました。同盟参加国のうち、2020年までに削減目標を強化して再提出すると宣言している国は73カ国あり、加えて、国内で検討を始めた国が11カ国あります(2019年12月11日時点)。残念ながら、この計84カ国の中に日本は含まれていません。
一方、国内で検討を始めた11カ国の中には欧州の国が多く含まれており、COP25会期中の12月11日、欧州委員会は「欧州グリーンディール」と呼ばれる削減目標引き上げの提案を含む一連の政策を発表しました。提案は、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするとともに、2030年までの排出削減目標を現行の40%削減から“少なくとも”50%削減に引き上げるというものです。
会期後半には、マーシャル諸島やコスタリカなど、島嶼国や一部の中南米諸国からなる高い野心連合(High Ambition Coalition)と呼ばれるグループが記者会見を行い、COP25の成果としてNDC強化の文言を入れることを支持しました。
最終的には、現状の取り組みとパリ協定目標のギャップを考慮し、「可能な限り高い野心」の反映を求める文言に合意しましたが、目標引き上げを直接的に求める表現とはなりませんでした。
日本に求められること
依然、世界各国が掲げている排出削減目標と、パリ協定が目指す「産業革命前からの世界の平均気温の上昇を2℃より十分低く保ちつつ、1.5℃に抑える努力を追求する」という長期目標の間には大きな隔たりが存在します。
2020年に、日本も含めた各国が取り組みを強化できるかが大きく問われています。
【プロフィル】山岸尚之
2003年に米ボストン大大学院修士号を取得後、WWFジャパンで温暖化とエネルギー政策提言に従事。