苦悩する香港

(下)声上げられぬ「新移民」 親中派として攻撃対象に

 香港で先月下旬に行われた地方議会選で民主派が85%もの議席を獲得し圧勝した。「香港人の勝利だ」。デモ隊が歓喜の声を上げた。だが、その“香港人”の枠からデモ隊によって排除された市民が多数いる。中国からの移民だ。約750万人の香港市民のうち、1997年の中国返還以降の移住者は100万人を超える。対中批判が過激さを増し香港人意識が高まる中、「新移民」と呼ばれ多くが差別され、声も上げられず暮らしている。

 「命の危険を感じ、ずっと家にこもっている」。2010年に香港人男性と結婚し、中国広東省深セン市から移住した主婦、劉(37)が顔をゆがめた。先日、娘(8)と街中を歩いていた際、見知らぬ男に詰め寄られ女性を侮蔑する聞くに堪えない言葉で罵倒された。劉が香港で一般に使われる広東語ではなく北京語を話していたからだ。今の香港では日常的に繰り広げられる光景だ。

 香港では英国植民地時代に広東省などから流入した人々らが香港人と呼ばれ、広東語社会を形成。しかし中国返還後の移民は広東語を話せない人が急増し、01年に移住した人では2%に満たなかったが、今は移住して来る人の3分の1が話せない。こうした新移民やデモを批判する人は「親中派」のレッテルを貼られ攻撃対象に。今年11月にはデモ隊と口論になった男性が液体をかけられて火を付けられ、重体となる事件まで起きた。人権団体調査では9割の新移民が差別を感じている。

 劉もその一人だ。娘の出産時、突然病院に現れたパトカーで連行され、警察署の留置場で生後3日の娘を抱きかかえ、渡された毛布1枚で寒さに震えた。子供の香港戸籍を得ることで、香港居住権を得ようと違法入境して出産した中国人と疑われたのだ。「中国からの移民というだけで人間扱いもされなかった」

 香港の人口は昨年比で約7万3000人増え、うち中国からの移民が約4万4000人を占める。地方議会選は議席数では民主派圧勝だったが、票数では民主派57%に対し親中派41%。新移民たちの「声なき声」の表れだ。

 劉は娘が学校でいじめられ、母親グループでは仲間はずれにされる。「香港で美しい未来が待っていると信じて移住してきた。でも今は暗黒の日々。これからどう生きていけばいいのだろう」(敬称略、香港 共同)

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