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米5G戦略 中国との覇権争いにソフト開発で巻き返し図るも、実効性に懸念の声

 トランプ米政権が第5世代(5G)通信網をめぐる中国との覇権争いで、ソフトウエア重視の対抗戦略を探り始めた。ハードウエアでは華為技術(ファーウェイ)など中国勢の先行を許しており、ソフトの技術開発に重点投資して挽回を狙う。また、国内では通信事業の規制・監督を担う連邦通信委員会(FCC)が、新規導入の機器だけでなく、既存設備からも中国製を撤去するよう求める厳しい「締め出し策」を断行する。(ワシントン 塩原永久)

 既存設備も撤去

 FCCは2019年11月22日、「安全保障上の脅威となる機器」への補助金利用の禁止を議決。そこには、過疎地や地方の通信会社から懸念が表明されていた強硬措置が盛り込まれた。すでに設置された中国製品まで撤去するよう求めたのだ。

 FCCは、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の2社を「安保上の脅威」と認定し、連邦補助金で2社の製品・サービスを調達することを禁じた。

 都市部の大手通信会社はすでに中国製を排除が進んでいる。

 一方、資金が乏しく、通信網整備を補助金に頼る地方の通信会社は、安価な中国製を調達するケースが多かった。それだけに、地方の企業の間では、既存設備にも踏み込んだ中国製の締め出し案に警戒感が強かった。

 FCCとしてはこうした懸念を踏まえ、撤去費用の補償プログラムも検討し、理解を得たい考えだ。米議会でも、設備の撤去と入れ替えに要する費用を支援する基金の設立を模索する動きがある。

 明確なメッセージ

 米政府は同盟国や友好国に対し、5G通信網に使用された中国製機器から情報が漏洩(ろうえい)する恐れがあるとして、華為などの製品を排除するよう要求している。ただ、欧州を中心に、完全排除に同調しない国もある。

 そんななかでの今回のFCCの措置は、議会と足並みをそろえつつ、次世代産業の競争力を左右する5G通信網で「安全保障にもたらす脅威を傍観しない」(パイFCC委員長)との断固としたメッセージを内外に発信した形だ。

 もっとも、世界の5G機器(ハードウエア)市場ではファーウェイが優勢だ。スマートフォンなどの端末とのデータ送受信を担う「RAN」と呼ばれる中核機器で、同社の世界シェアは31%と首位(2018年第1四半期)。後続はエリクソン(29%)やノキア(23%)の北欧勢で、米国メーカーは存在感が薄い。

 ソフトウエアに活路

 米政府が友好国に求める中国製ハードの排除が思うように進まない中、米当局からは、本格化しつつあるソフトウエア開発で巻き返しを期すべきだとの意見が盛んに出ている。

 現行の4Gでは、基地局と端末間でデータをやりとりするソフトの「仕様」は、主要機器メーカーごとに決まっていた。これに対し、5Gでは仕様を「オープン化」して、どのメーカーでも参入できるようにする取り組みが進んでいる。このため、ソフト開発の強化を通じて、5Gのシステム構築で主導権を握ることを狙う-というわけだ。

 FCCのローゼンウォーセル委員は2019年11月の会合で、5GのRANのソフトウエア開発を米国が主導できれば、「(5G)機器の将来(の競争力)を、米国がもっとも強みとするソフトや半導体といった分野に託すことができる」と指摘した。

 米国土安全保障省でサイバーセキュリティーを統括するクレーブス氏も、2019年10月末の上院公聴会で、5GのRANに関する研究開発(R&D)投資を重視する方針を表明。ハードでの劣勢をソフトで挽回する方向性を打ち出した。

 ただ、中国はハード面だけでなく、5Gに関連した「標準必須特許」の取得でも先行している。

 また、ソフトウエアの研究開発に活路を見いだそうとするトランプ政権の最近の動向は、国土安保省やFCCなど関連当局が独自に進めるもので、省庁を横断した統一的な政策とはなっておらず、米専門家からは実効性に懸念の声も出ている。

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