海外情勢

いずれ香港の代わりに? 中国がマカオに特権、「飛び地」貸与で一体化加速

 中国本土にマカオの“飛び地”ができつつある。中国政府が南部の広東省の一部区域をマカオに期限付きで貸与することを決定。マカオと同じ「一国二制度」下にある香港で中国に反発するデモが続く中、中国に従順なマカオに特権を与えて一体化を加速する。政治的に不安定な香港に代わりマカオを金融、貿易の窓口に育てようとしているとの見方も出ている。

 中国が貸与を決めたのは、マカオ対岸に位置する広東省珠海市の経済開発区「横琴新区」の税関施設周辺。面積は約16万平方メートルの東京・日比谷公園とほぼ同じで、域内ではマカオの法律が適用される。貸与期限は2049年12月までだが、延長も可能だ。

 マカオの中国返還20年の式典を2日後に控えた昨年12月18日、横琴新区では貸与の第1ステップとなる税関業務開始の準備が急ピッチで進められていた。地元関係者によると、習近平国家主席のマカオ訪問に間に合わせるため、約5000人の作業員が不眠不休で作業。軌道に乗れば1日に22万人の通関業務に対応できるという。

 「中国本土の人間は入ることができない」。内陸部の湖南省から出稼ぎに来た40代の徐さんは、フェンスで囲まれた“飛び地”を羨(うらや)むように見つめた。

 中国の狙いは対外開放度の高いマカオの強みを生かした横琴新区への投資の誘致だ。中国政府は新区を一国二制度下での中国・香港・マカオの協力のモデル地区と位置付けている。

 最近は中国とマカオの一体化が際立っており、新区内の新築住宅3800戸をマカオ市民に安価で提供する計画も進行中だ。マカオと同水準のビジネス・生活環境を整え、金融やIT産業、観光などで外資誘致を図る。

 マカオ駐在の外資系企業幹部は「中国は香港の外資を横琴新区に誘導し香港を骨抜きにしようとしている」と分析した。

 中国が09年に横琴新区を設置した際、この地域を香港、マカオとの交流拠点にし、一国二制度の「交差点」とする構想だった。だが中国とマカオの連携が目立つ一方、香港の影は薄い。昨年12月18日にマカオ入りした習氏は、マカオでの同制度の成功を「誇らしい」と絶賛し、香港も見習うよう暗に迫った。

 マカオへの優遇措置を相次いで打ち出し、香港を揺さぶる中国。ただ香港はカジノに依存するマカオと産業構造が異なる上、民主や自由を軽視する中国の価値観への嫌悪感が強い。

 香港紙、明報は同19日付の社説で「マカオの統治モデルを香港に移植することはできない」と強調し、マカオ式の一国二制度にノーを突き付けた。(横琴新区 共同)

【用語解説】一国二制度

 社会主義の中国に資本主義を併存させる制度。本来は台湾統一政策として構想された。1997年に英国から返還された香港、99年にポルトガルから返還されたマカオに適用され、中国の「特別行政区」となった。憲法に当たる「基本法」は、返還後も資本主義を50年間維持し「高度な自治」を認めると規定。私有財産権、言論、集会、信仰、職業選択の自由も約束するが、中央政府(中国)が外交、防衛を担い、政治改革など重要事案については中国の承認が必要と定めている。(マカオ 共同)

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