海外情勢

英領北アイルランドで3年崩壊していた自治政府復活 継続に向け未だに残る不安

 【ロンドン=板東和正】英領北アイルランドで不在状態が続いていた自治政府が11日、復活した。北アイルランドでは、英国統治を望むプロテスタント系勢力と、アイルランドへの併合を求めるカトリック系勢力の根強い対立が原因で3年前に自治政府が崩壊。英、アイルランドの両政府の仲介で政府復活にこぎつけたが、両勢力の間には今も対立の火種がくすぶっているとの見方もあり、自治政府が維持されるかどうかは不透明だ。

 北アイルランドでは、1960年代以降、プロテスタント系とカトリック系による紛争があり、3千人以上が死亡。1998年に和平合意し、両勢力による自治政府が統治してきた。

 しかし、両勢力はエネルギー政策をめぐり2017年1月に再び対立し、和平を支えてきた自治政府が崩壊。紛争再燃を防ぐため、英、アイルランド両政府が昨年5月から自治政府復活に向けた協議を続けてきた。協議の末、英本土との一体性を主張する北アイルランド民主統一党(DUP)とカトリック系のシン・フェイン党が10日、自治政府の再建で合意。アイルランド議会が11日開かれ、自治政府が3年ぶりに復活を果たした。

 自治政府の復活をめぐっては、アイルランド内では実現を懸念する声が多かった。DUP幹部の大半は今でも、反カトリックのプロテスタント組織に所属し、「紛争時の憎しみが今も残る」(住人)。

 両勢力は国内の教育問題でも対立しており、シン・フェイン党が求めるアイルランド語教育の必修化をDUPは拒否。幼少時に紛争の様子を間近で見て育った俳優、ローナン・バーンさんは昨年5月、英、アイルランド両政府の協議を「ただの政治的なジェスチャーで、本気で解決するとは思えない」と言い放っていた。

 DUPがシン・フェイン党との“和解”に応じた背景には、1月末に控える英国の欧州連合(EU)離脱がある。ジョンソン英首相がEUと合意した離脱協定案では、現在の経済関係を維持する今年末までの「移行期間」終了後に、北アイルランドを含む英国全体が関税同盟から離脱。ただ、北アイルランドの関税手続きは当面、EUルールに従い、国境付近の税関検査を省く方針だ。

 一方で、北アイルランド議会が、EUルールの適用の是非を移行期間終了後の数年ごとに判断できる仕組みになっている。地元住民によると「北アイルランドが英国から切り離された」と協定案を批判するDUPは将来、EUルールから抜けるためにシン・フェイン党と取りあえず手を組み、自治政府を復活させたとみられている。

 だが、アイルランドとともにEUに残留することを望んでいたシン・フェイン党が、EUルールから離脱するDUPの方針に議会で反発するのは必至だ。両党が今後も衝突する可能性は高く、自治政府の継続が不安視されている。 

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