海外情勢

外国人労働者の保証人制度、嘆く家政婦 雇用主強く賃金未払いも

 多数の外国人労働者を受け入れる中東では、雇用主が身元保証人となる「カファラ(保証人)」という制度がある。滞在許可の延長など、重要な権限を雇用主が握り「労働者を搾取する仕組み」と批判も。アジアやアフリカ出身の女性らが家政婦として働くレバノンで、制度の実態を探った。

 「ここで働くしかなかった」。20代のエチオピア人、ダハさんは7年前、レバノン人富裕層の家庭で住み込み家政婦として働き始めた。故郷の家族を支えるためだった。

 仕事は広大な敷地の掃除や子守。月給150ドル(約1万6000円)からの賃金アップを求めたが拒否され、1年以上賃金不払いが続いたため逃げ出した。雇用主は義務に反して滞在許可の更新をしておらず、「不法」な身分のまま友人宅に身を寄せる。

 カファラ制度では、労働者の滞在延長手続きは本人ではなく雇用主が行う。パスポートを没収され、逃げ出せば逮捕されるケースもある。労働者は滞在維持のため、契約内容に不服でも雇用主との契約を容易に打ち切ることはできない。オイルマネーで潤う湾岸諸国でこうしたことは一般的だ。

 レバノンでは1975年から15年間続いた内戦で宗派間の対立が深まり、宗派と無縁の外国人家政婦の需要が高まった。人口609万人の小国で約25万人の外国人家政婦が働く。だが十分な権利が認められておらず、雇用主とのトラブルがあると泣き寝入りせざるを得ない。労働者の逃亡や虐待などが多発している。人権団体は「思い悩んで自殺する労働者も多い」と指摘する。

 エチオピア人、フィリピン人、スリランカ人…。首都ベイルートの仲介業者を訪ねると、履歴書が山積みになっていた。雇用主は国籍や顔写真、外国語能力などを見比べながら家政婦を選ぶ。

 「新しい土地で困難に直面するのは当たり前。彼らも承知の上で出稼ぎに来ている。こちらの責任ではない」。職員は自殺者が出ていることについてそう弁明した。

 公的支援が乏しいレバノンで女性の負担を軽減するのが家政婦の役目。これまで5人以上を迎え入れてきた60代の主婦、マリアムさんは「私たちを支えてくれる大切な家族の一員。カファラは、何も持たずに母国を離れた出稼ぎ労働者を雇い主が保護する仕組みだ」と制度を支持した。

 国内で制度を問題視する声は大きくなく、選ばれる側の家政婦にとって、良心的な雇い主に出会えるか否かが明暗を分ける状況が続いている。(ベイルート 共同)

【用語解説】カファラ制度

 雇用主が身元保証人として手続きを行い、出稼ぎ労働者を受け入れる制度。外国人に労働力を大きく依存する中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)など湾岸諸国やレバノン、ヨルダンで採り入れられている。労働者が問題を起こした場合、雇用主が責任を負う。そのため、パスポートを没収したり、外出を禁じたりして労働者の行動を制限する雇用主がいる。労働者は主にアジアやアフリカの出身で、制度や仕事の内容を熟知せずに入国する労働者も多い。(ベイルート 共同)

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