海外情勢

ミャンマー内陸の街に一帯一路の波 経済回廊で脚光、不釣り合いな開発 (1/2ページ)

 ミャンマー東北部に位置するシャン州のムセは、中国雲南省徳宏タイ族チンポー族自治州瑞麗市と地続きの国境の街。近くには両国を隔てるシュウェリ川が流れているものの蛇行が激しく、その流れと国境線は必ずしも一致しない。このため物資や人が行き交う国境検問所「瑞麗口岸」は大きくミャンマー側に食い込むように置かれており、両国間の重要な貿易拠点となっている。そして今、中国の国家政策「一帯一路」を支える中継地点としても脚光を浴びるようになった。その内陸の地に、昨年末から今年初めにかけて足を踏み入れた。

 中国国境貿易の拠点

 ミャンマー第2の都市である中部マンダレーから大型バスに揺られて15時間余り。予定の時刻から2時間半以上遅れて、バスはムセ郊外にあるバスターミナルに到着した。高地にあって気温は9度。乗車した午後7時の時点で25度だったから、さすがにこたえる。途中の粗末なドライブインで購入したカーディガンがこの上なく暖かかった。

 同国商業省によると、2018年度(18年10月~19年9月)の貿易総額は約350億ドル(約3兆8300億円)。このうち国境貿易は約100億ドルを超え、ミャンマーの国際収支の柱となっている。その半分は中国国境で取引され、中でも舗装路があるなど交通の便が良いムセは重要な貿易港だ。一時は、中国国境貿易の9割超を占めた。

 ミャンマーから中国に向けて出荷されるのはコメやマメ、トウモロコシ、スイカなどの農作物や肉牛をはじめとする畜産物など。逆に中国からは家電製品や建設資材、消費財などが輸入され、通関ゲートの前では大型トラックが列をなして手続きを待っている。

 その内陸の貿易拠点が世界から注目されるようになったのは、17年末にミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問と中国の習近平国家主席が会談し、「一帯一路」構想に基づく「ミャンマー・中国経済回廊」の開発で合意してからのことだ。

 雲南省からムセ、マンダレーを経由し、インド洋に臨む西部ラカイン州チャオピューまでを結ぶ同回廊は全長1500キロを超える。中国政府が完成させた原油のパイプラインが既に稼働しており、ここに道路や鉄道網などのインフラも整備するとされた。チャオピューでは深海港と経済特区が建設され、マラッカ海峡を経由しない新たな経済圏を創設するとしている。

 ところが、構想が発表されて間もなく、権益を狙って中国へ向けた密輸が深刻化した。18年10月には中国当局が取り締まりに乗り出さざるを得なくなったことに加え、昨年8月にはミャンマーの少数民族武装勢力による橋梁(きょうりょう)の爆破事件が発生。このため、ムセを経由する貿易が一時的に停止を余儀なくされる事態に見舞われた。

 現在はこうした状況や治安は回復しており、国境貿易は対前年で8割近い高い伸びを見せる。このまま推移すると、ムセを経由した19年度の貿易総額は50億ドルを超えるとも予想されている。訪問した年末年始はそうした復興景気に沸く最中で、何百台というトラックが国境に集結していた。

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