海外情勢

新型肺炎、病院にもいた“勇武派” 初の病院スト「穏健な抗議では変わらない」

 【香港に生きる】

 「簡単な決断ではなかった。悩み抜いた末に参加したんだ」。香港の公立病院で働く男性看護師、ジェフリー(28)=仮名=は顔をゆがめた。

 今月3日から7日まで行われた医療関係者のストライキに加わった。延べ2万8千人以上(労働組合発表)の看護師や医師らが参加したストにより、人手不足に陥った各病院で手術の延期が相次いだ。

 「香港政府は、中国本土からやって来る人々の申告に依存した防疫政策を進めている。でも(新型コロナウイルスが発生した)湖北省に滞在したことのある人が、それを正直に申告しなかったらどうなる?」

 最も厳重に隔離されなければならない人の管理が甘くなれば、医療の最前線に立つ自分たちはもちろん、香港の一般住民の安全を守ることなどできない。

 「だからストという強硬手段に訴えて、中国との境界の完全封鎖を政府に要求したんだ。そして、私たちの防護具を十分に提供すること。信じられないかもしれないが、最も必要な医療現場でも足りないんだ」

 医療用マスクのほか、顔を保護するフェイスシールド、ガウン…。政府は病院用に確保しているというが、減り続ける在庫の棚を見るたびに不安になる。

 彼の病院にも感染が確認された患者が何人もいる。患者の口に管などを挿入するとき、感染リスクが高くなる。細心の注意を払うのは当然だが、しくじって「感染したかも…」という場合があるかもしれない。そんなときは、自分で自分を隔離する覚悟はできている。愛する人たちにうつすわけにはいかない。

 昨年6月に本格化した反政府デモには何度も参加した。そのたびに、最前線に立って警官隊と対峙(たいじ)する勇武(武闘)派の若者たちを見ながら、「本当に勇気がある。自分には到底まねできない」と思っていた。

 でも、中国返還後初めてという病院ストを決行した自分たちはどうだろう。

 「穏健な抗議活動では何も変わらないという現状認識は彼らと似ている。私たちも勇武派といえるのかもしれない。医療界のね」

 将来の夢を聞いてみた。戸惑いの表情を浮かべて、「実は-」と切り出したのが移民の計画だった。

 「来年、恋人と結婚して外国に移住しようと思っている。香港では、夢を持てない。しかしどこに行っても自分が香港人であることに変わりはない。だから今回のストに参加したんだ」

 インタビューを終えて繁華街に出ると、さっき別れたジェフリーが恋人であろう女性と前を歩いていた。取材時とは打って変わった、柔らかいまなざしで話をしながら、マスクの群れの中に消えていった。(香港 藤本欣也)

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