海外情勢

カシミール、寂れる市場 地震の爪痕深く、観光客減響く

 パキスタンが実効支配するアザド・カシミール特別州の州都ムザファラバード最大の市場に、手縫いの刺繍(ししゅう)を施した伝統工芸品を直売する店が1軒だけある。かつては15店ほどが並び、観光客らに人気だったが、2005年のパキスタン地震による壊滅的な被害で次々と閉店。残った店の職人は、再びにぎわう日が来るのを願っている。

 大きな針を素早く動かし、厚手の布地に赤や緑の草花を描いていく。「カシミール・アート・センター」の経営者で刺繍職人のシェール・ハーンさん。得意とするのは大きな模様を縫い付けたベッドカバーで、ダブルベッド用は5日ほどで仕上げる。価格は7000パキスタンルピー(約5000円)前後だ。

 ハーンさんは手に職を付けようと州内の裁縫学校に通った後、約30年前に自分の店を開いた。当時はライバルと技術を競い合い「オリジナルの刺繍を開発しても2日でまねされた」と笑う。

 地震ではカシミール地方に被害が集中し、パキスタン側で約7万3000人、インド側で約1300人が死亡した。市場にも被害があり、刺繍職人たちは転職を余儀なくされた。賃金が低いことから担い手も減り、今では女性の内職によるものが主流になっているという。

 ハーンさんの店も地震で全壊したが、再建して続ける理由は「縫っていると幸せな気分になるから」。

 市場があるカシミール地方は、インドとパキスタンが領有権を争っている。最近は緊張の高まりから観光客が減っているといい、ハーンさんは「両国が関係を改善して観光客がたくさん来るようになってほしい」と話している。(ムザファラバード 共同)

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