インドネシアでも連日、新型コロナウイルスに関するニュースが大きく取り上げられている。インドネシア政府は、2月5日から中国本土との全ての航空便を運休にする措置を取り、14日以内に中国本土に滞在した全ての外国人の入国を拒否している。21日までに中国人を中心に感染の疑いがある計118人の入国を拒否し、日本人も複数、入国を拒否された。
インドネシア人の感染に関しては、2月26日現在、横浜に停泊しているクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船するインドネシア人乗組員78人のうち3人の感染が確認された。また、シンガポールへの出稼ぎ労働者の女性1人の感染が確認されたというが、インドネシア国内での感染確認者はいないという。
◆「感染者ゼロ」強調
そんなはずはないと誰もが首をかしげるのも無理はないが、インドネシア政府は、大統領も含めこれまでのところ「感染確認者ゼロ」を強調している。
インドネシア政府もチャーター機を飛ばし、湖北省武漢市から245人を退避させた。南シナ海の領有権をめぐり問題となっているナトゥナ島の国軍の医療施設で2週間の経過観察のため隔離していたが、誰も感染の兆候を示していないという。また、春節(旧正月)の際、武漢からの200人を含む約5000人の中国人観光客がバリ島に残ったといわれていたが、その後感染者情報はない。これだけ武漢とかかわりのある人が国内にいるのに、感染者がいないのは不可解すぎる。
感染確認者ゼロを受けて逆に、新型肺炎の感染拡大を示唆するデマやフェイクニュースを会員制交流サイト(SNS)で流した人が逮捕されるなど脅威をあおる人がいる。一方では、「インドネシアには既にたくさんのウイルスが入っており、免疫力が強い人が多いから新型肺炎にはならない」、または「気温と湿度が高くウイルスが好まない環境だからインドネシアは大丈夫だ」といったあまり根拠のない話も聞こえてくる。
◆礼拝で手洗い徹底
しかし、「イスラム教徒は新型肺炎になりにくい」という話は、一理あると思って聞いている。イスラム教徒は1日5回、太陽の位置によって決められた時間にお祈りをするが、お祈りの前に身を洗い清める。「ウドゥ」と呼ばれている清めの行為は、日本人が神社を参拝する際、手を洗ったり口をゆすいだりする行為に似ているが、それよりもさらに徹底している。ウドゥは、手、口の中、鼻の中、顔、腕、髪の毛、耳、足の順にそれぞれ3回洗うと決められているからだ。
またイスラム教徒は排泄(はいせつ)の際、左手と水を使うため、トイレの度に必ず手を洗う。イスラム教徒が豚を食べないのも感染症対策が理由だといわれているが、清潔を重んじるイスラム教のルールも病気の予防が理由という。さらに食事を手で食べるので、食事の前後に必ず手を洗う。
イスラムのルールにのっとって生活しているインドネシア人は、日本人よりも手を洗う回数は確実に多い。新型肺炎対策はこまめな手洗いだといわれているが、そういう点では、真面目なイスラム教徒は感染症になりにくいのかもしれない。(笹川平和財団 堀場明子)
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