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田中角栄元首相もビックリ 令和版「日本列島改造論」の処方箋 (2/2ページ)

 格差を埋める秘策は

 もちろん、国も手をこまねいているわけではない。25年に約10万人だった東京圏の転入超過を令和2年にゼロにする目標を掲げて、地域産業の振興などに取り組んできたが、短期間に効果を上げるのは難しく、逆に東京圏への転入超過は増えた。

 古くは高度成長時代から首都圏と地方の格差を埋めようという施策はあった。田中角栄元首相の「日本列島改造論」だ。工場を全国に再配置し、地方と都市を新幹線や高速道路、通信網で結び、都市の過密と地方の過疎を一挙に解消する壮大な構想だった。だが、新幹線や道路をつくるほど、地方の人が都市へ出やすくなり、東京一極集中を加速させた。

 こうした中、日本総合研究所の井上岳一シニアスペシャリストが昨年10月に発刊した「日本列島回復論」が話題を集めている。井上氏は著書の冒頭、この題名には日本列島改造論への「対抗意識があった」と説明している。

 著書の骨子としては、過疎地を都市に近づけるのではなく、「田舎らしさ」に磨きを掛ける方が訪日外国人客も日本人も魅力を感じるということだ。

 訪日客は他の先進国と同じような大都市よりも日本の原風景を味わえる田舎に魅力を感じ始めている。また、都市の生活を息苦しく感じる日本人には、物価が安く自然にあふれた地方は住みやすく感じる。インターネットに代表される通信網の発達で、過疎地を含めた田舎に住むハードルを下げていると語る。

 研究・開発や学問、芸術などは、自然豊かな地方の方が独創的なアイデアを生み出しやすいとの見方もある。著書では、本社を創業の地の松山市に置き続けるボイラー大手の三浦工業と、石川県小松市で創業し東京へ本社を移しながら、教育機能や購買部門を小松市の拠点に戻した建設機械大手のコマツの事例を紹介。「本社機能が地価の高い東京にある必要はなく、松山から動きたくない女性も多い」(三浦工業)、「30歳以上の女性社員を対象にした調査では、東京都の既婚率約50%・子供の数平均0.9人に対し、石川県では既婚率約80%・子供の数平均1.9人だった」(コマツ)という両社の声も載せ、「少子化に対する特効薬は、企業の本社機能を地方移転させることではないか」と唱える。

 90万部を超えるベストセラーとなった日本列島改造論と並ぶ名著となりうるか-。(藤原章裕)

 井上岳一氏(いのうえ・たけかず) 東大卒、米エール大大学院経済学修士課程修了。林野庁などを経て平成15年から現職。50歳。神奈川県生まれ。

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