日本のスタートアップ企業がフィリピンやインドネシアなどのトライシクル(バイクタクシー)運転手を主な対象に、金融とITを融合させた「フィンテック」のサービスを普及させている。小型通信端末を車両に付け、働きぶりを可視化。「真面目に働く運転手」との信用情報を金融機関に提供し、ローンを組めるようにする事業だ。
1月、マニラの国際会議場で開かれたパーティーに約1300人が詰め掛けた。「グローバルモビリティサービス」(GMS、東京都港区)がローンを完済した運転手や家族を招待し、中島徳至社長は写真撮影や握手を次々に求められていた。
広報担当の大久保祐介さんによると、GMSは衛星利用測位システム(GPS)、加速度センサー機能を持つ端末を開発。搭載すると稼働時間や走行距離、運転の丁寧さを把握できる。仕事ぶりが信用につながり、これまで与信審査を通過できなかった運転手にローンを組む道が開けた。
端末には返済が滞れば車両を遠隔操作で停止させる機能もあり、支払いの督促が可能だ。融資先を増やせる利点に引かれ、約20の金融機関がGMSと提携。収益をシェアしている。
トライシクルは貸し出しを受けた運転手が毎日オーナーに使用料を払うのが一般的だが、支払いに追われて貯金できず、貧困から抜け出せない一因とも指摘される。ローンを組めれば自分の車両を購入でき、生活の安定につながる。
マニラの運転手、マリチュ・セベロラさんは以前、トライシクルを半日借りるたびオーナーに150ペソ(約320円)を支払っていた。2015年にGMSのサービスを利用し、3年ローンで19万ペソのトライシクルを購入。「もう完済し、今では働きたい時に働ける。財産があるのはうれしい」と生活向上の手応えを感じていた。
GMSによると、同社の端末を搭載してローンを組めるようになった運転手は事業展開する4カ国で計1万人を超えた。中島さんは「フィンテックは金融にアクセスできる人の幅を広げられる。30年までに1億人に届けたい」と話している。(マニラ 共同)