海外情勢

タイ国境の難民診療所、無料維持困難 米英援助打ち切りで資金難

 ミャンマーとの国境に近いタイ北西部メソトで、軍事政権時代にミャンマーから逃れた難民を無料で診察してきた「メータオ・クリニック」が資金難に陥っている。米国や英国などが、ミャンマー国内に援助の軸足を移したためだ。国境地帯で活動する他の非政府組織(NGO)も、同様に運営が厳しくなっている。

 メソト市内から車で約20分。畑が広がる地に、平屋の質素な建物が並ぶ。家族に付き添われた患者が順番を待ち、スタッフが忙しそうに動き回っていた。

 クリニックは1989年に開設。外科や小児科、産婦人科などがあり、スタッフは約400人。難民のほか、国境を越えてきたり、タイで仕事をしたりするミャンマー人も受け入れ、2018年は延べ約9万9000人が受診した。

 クリニックによると、17年には米英両政府が計約6000万バーツ(約2億円)を援助し、年間収入の6割弱を占めた。ただ、近年はミャンマー民主化に伴って同国内での人道支援が活発になり、米英も18年にクリニックへの援助を打ち切った。

 「緊急性が低い手術では、患者に治療費を払ってもらうようになった」。設立者で、自らも難民だったミャンマーの少数民族カレンの女性医師、シンシア・マウンさんは残念そうに話す。

 スタッフの給料を2割減らし、難民キャンプの子供たちへの食料支援など、これまで取り組んできた事業の一部を他の団体に任せた。シンシア・マウンさんは「不法滞在など、さまざまな事情から他の病院にかかれない患者ばかり」と話し、お金がある人だけを優先できないとため息をついた。

 2歳のときにミャンマーからタイへ移住した女性は、クリニックで第1子を出産。生活は苦しく「この診療所がなければ出産できなかった」と赤ん坊を抱き締めた。

 タイで活動する別の団体も、これまでのような支援が受けられなくなっている。難民キャンプで図書館を運営する日本のNGO「シャンティ国際ボランティア会(SVA)」の八木沢克昌アジア地域ディレクターは「子供たちがいる限り、貧困の連鎖を食い止めるためにも支援が必要だ」と話す。

 ミャンマーの少数民族女性の地位向上を訴えるNGO「在タイ・カチン女性協会」も資金不足で事業の一部を中断。設立者のシャーリー・センさんは「ミャンマー国内はまだ軍の影響力が強く、安心して活動できない」と国外で支援する意義を強調した。(メソト 共同)

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