社説で経済を読む

五輪1年延期、コロナ終息へ結束の時

 新型コロナウイルスの感染拡大で延期となっていた東京五輪の開幕日は来年7月23日に決まった。パラリンピックは8月24日から行われる。当初の計画からほぼ1年後にスライドさせた形だ。(産経新聞客員論説委員・五十嵐徹)

 国際オリンピック委員会(IOC)と政府、東京都、大会組織委員会が3月30日に合意した。

 暑さ対策として、春の「サクラ五輪」を推す声もあったというが、世界的なウイルス感染の終息時期は現時点では見通せない。1年程度とされた延期幅の中で、なるべく遅い夏開催を選択したということだろう。

 各紙もおおむね評価

 当初の競技日程を曜日ごとそっくり移動させることで、暑さ対策などを含めて、これまでの準備を生かせるとの判断もあったようだ。産経2日付主張(社説)は「現時点で取り得る最善の策」と評価した。

 他紙もおおむね「延期による影響を最小限に抑える現実的な日程と言える」(読売1日付社説)との見方で一致している。

 だが、「安心・安全な五輪」の開催にこぎ着けるには、なお乗り越えるべき課題が少なくない。

 朝日社説は1日付で「目標がはっきりしたことは、選手を始めとする関係者には朗報だろう」としつつも、「ウイルス禍の収束」が「どの時点で、世界がいかなる状態になっていれば最終的に実施に踏み切るのか、判断の基準や手続きなどは、IOCからも、日本側からも示されていない」とし、「果たして責任ある態度といえるだろうか」と疑問を投げかけている。

 とはいえ「精緻なものは無理だとしても」と認めながら「今後想定されるケースごとに対応策を考え、その内容を丁寧に説明しながら、社会の合意を形づくっていく必要がある」という朝日社説に矛盾はないか。一見、正論のようでいて、ややないものねだりの印象も受ける。

 仮に延期幅を2年にしたところで、現時点で先行きを見通せない点では同じだ。毎日3月31日付社説も「世界的に感染が収束していることが開催の大前提」としたうえで、なにより「開催に向け、選手村や競技会場、ホテルなど各国から人が集まる場所での感染症対策を練り直す必要がある」と万全の準備に注力するよう強く求めている。

 安倍晋三首相が強調してきた「完全な形での開催」とは、参加したい国をすべて受け入れられる環境を整えることでもある。それは、日本はじめ国際社会が新型コロナウイルスに打ち勝ったことを示すうえで重要だ。

 毎日は同じ社説で「医療機関との連携が欠かせない。選手が感染した場合の試合の取り扱いや、選手村での対処方法もあらかじめ想定し、検討しておかなければならない」とも指摘している。その通りだろう。

 むろん「ほかにも課題は山積している」(朝日1日付)。

 たとえば競技会場の確保が1年後も可能かという問題。産経2日付主張によれば「43ある競技会場のうち既存施設を使う25会場は、来夏の予約が入っているところが多い。東京五輪のために再び確保するため、補償金の発生も懸念される」という。

 局面転換の切り札に

 膨らむ一方の開催経費をどう捻出するかも大きな課題だ。昨年末時点で総費用はすでに1兆3500億円に達すると弾かれた。IOCなどの試算によると延期に伴う競技施設やホテルの借り換え、職員の人件費増などで、さらに3000億円ほど膨らむと見込まれている。

 毎日社説は「コロナ禍で景気の急速な冷え込みが懸念される。五輪の追加費用だけを『聖域』とするような発想は到底、認められない」(3月31日付)と厳しい。だが避けては通れないハードルである。

 朝日社説は「肥大化が進んだ大会の持続可能性が問われて久しい。過去に例のない『延期』の作業を進めるなかで、五輪のあり方そのものを見つめ直したい」(1日付)と主張する。これも確かに正論だ。

 しかし、こんな時だからこそ五輪を沈滞ムード一掃の切り札にする知恵を絞りたい。国際社会は今、一致してウイルスという見えない共通の敵に挑もうとしている。これは、五輪憲章が求める「友情、連帯そしてフェアプレーの精神に基づく相互理解」の精神に通じる。

 世界に蔓延(まんえん)する内向き志向を脱し、あるべき国際協調を探る。「世界中から祝福される平和の祭典に向け、史上初の延期という形で与えられた長い準備期間を充実させたい」(日経1日付社説)。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus