カンボジア日本人商工会(JBAC)は3月26日、カンボジア政府汚職防止機構(ACU)との間で「汚職防止に関する了解覚書(MOU)」を交わした。汚職や不正に断固として反対する姿勢を表明し、カンボジアにおけるビジネスの透明性を高めることが目的だ。ACUはカンボジアの政府機関で、汚職防止の啓発活動や不正の捜査、摘発を担っている。
JBACは1992年に発足。4月1日現在の会員企業数は、正会員202社、準会員65社、特別会員・賛助会員が5社・団体で、計272社・団体となっている。今回の覚書は、JBAC会員企業からの汚職や不正に関する相談担当者をJBACとACUの双方に置き、必要に応じてACUが汚職捜査に乗り出すことが誓約されている。
また、JBAC役員と事務局員に汚職や不正に関与しないよう求める。JBAC内規では「事務局員はカンボジアの法令(刑法、汚職防止法など)に違反しないこと。政府職員、サプライヤー、商工会内外の関係者との間で贈収賄などの不正な行為を行わないこと」と規定されている。
覚書調印式には、JBAC投資委員会の神田陽悟・委員長(現JBAC会長)と宮尾正浩・JBAC事務局長(日本貿易振興機構=ジェトロのプノンペン事務所長)らが出席。ACUからはオム・ジェンティエン上級相が出席して署名した。
透明性確立に貢献
神田氏は、「この覚書に署名することにより、JBACは汚職や不正に断固として関与しないことを表明する。会員が汚職にまつわる困難に直面した場合には、ACUと連携して解決に取り組む。この取り組みを通して、民間セクターとして、カンボジア社会のコンプライアンス(法令順守)や透明性の確立に貢献できると考える。また、日本の企業を含む外国企業がより活動しやすい環境を構築し、内外の投資家のカンボジアに対する信頼を高めることにつながると確信している」と述べた。
同じく署名式に臨んだACUのオム・ジェンティエン上級相は、「日本の投資家はビジネス活動だけでなく、常にカンボジアの社会的な課題に積極的に取り組んでくれており感謝している。新型コロナウイルスの感染拡大で深刻な問題が起きているなか、こうして覚書を交わすことで、経済活動も社会活動も続けていくのだというわれわれの強い意思を示すことができた」と述べた。
ACUによると、こうした汚職防止協力の覚書を交わしたのはJBACでちょうど100社・団体になるという。最も多いのは中国企業で57社・団体、次いで日本企業が19社・団体、カンボジア、米国、欧州などがこれに続く。
カンボジアは、毎年7%前後の経済成長率を達成して順調な発展を続けてきた。しかしその一方で、賄賂を要求されたり不正な取引を持ちかけられたりするなど汚職が常態化し、投資環境の悪化を招いているといわれる。
腐敗認識指数162位
非政府組織(NGO)のトランスペアレンシー・インターナショナルが毎年公開している「腐敗認識指数」調査によると、2019年、カンボジアは調査対象180カ国・地域中、162位だった。この調査は各国の公務員や政治家の汚職認識度を示すもので、上位であればあるほど「汚職の少ないクリーンな国(地域)」となる。
19年の調査では、世界最下位はソマリアだった。アジア太平洋地域の31カ国・地域でみると、カンボジア、北朝鮮、アフガニスタンがワースト3となり、カンボジアは東南アジアでも最も透明度の低い国という不名誉を担った。一方で、世界で最もクリーンな国とされたのはデンマークとニュージーランド。東南アジアでもシンガポールは4位に入った。日本は20位だった。
この調査とカンボジアの現状について、トランスペアレンシー・インターナショナル・カンボジアのシニアディレクターであるペ・ピセイ氏はクメール・タイムズ紙で、「われわれの調査によると、多くの外資企業が(カンボジアの)公務員から賄賂の要求を受けるなどの困難を経験している。大規模な企業はこれらをはねつける財力があるが、中小零細企業には難しい場合がある」と指摘した。また、「政府の取り組みにより、地方公務員の状況は改善の兆しがある。しかし、組織的で大規模な汚職は相変わらずだ。政府は、税徴収システムを改善するなどの取り組みをしているが、それでも不正は消えていない」と語っている。 (カンボジア邦字誌「プノン」編集長 木村文)