経済産業大臣政務官・宮本周司氏×STANDARD代表取締役・安田光希氏
デジタル化が経済社会を大きく変えつつある。個人や企業、社会もこの大きな環境変化に順応していくことが求められている。そうした取り組みであるデジタルトランスフォーメーション(DX)。行政もこの動きを積極的に後押ししている。今回は、STANDARD代表取締役の安田光希氏が、DX政策を所掌する経済産業大臣政務官の宮本周司氏に国策としてのDX戦略などについて聞いた。
デジタル活用阻む組織
安田「私はリーマン・ショック直後、中学1年生のときに株式投資に興味を持ちました。当時、米国や中国に比べ、日本企業の株価が低迷したままなのはなぜなのかが気になったのを覚えています。一因には、利益を生むためのデジタル活用が進んでいないという課題があると考え、デジタル技術やAI(人工知能)に関心を抱きました。その後、東大人工知能開発学生団体HAITを運営し、2年半前にはSTANDARDを設立しました。デジタル技術の普及が進まないのはヒトや組織に課題があると考え、“ヒト起点”というコンセプトを掲げて、顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援しています。これまで、HAITで約700人の若いエンジニアたちを抱え、大企業を中心に350社以上にデジタル技術に関する人材育成・コンサルティング・開発などのサービスを提供してきました。また最近では、さらに深く踏み込んで、業界特化のデジタル企業をいくつか設立しております」
リーマン・ショックが岐路
宮本「私は6年半前に参議院議員になるまでは。石川県の小規模な造り酒屋の社長として、伝統的産業の企業経営をずっとやってきました。当然、事業の効率化や省力化に取り組んできたわけですが、現在のデジタル化やデータ化といった観点で改めて振り返ると、伝統的な業界特有の慣習とか、ガラパゴス化していくような世界観、自分たちの都合のいいようにカスタマイズすることでレガシー化してしまったシステムなどに思い至り、デジタルプラットフォームを作っていくという潮流の中で、アナログ的な業界ほど足かせになることが多いのかもしれないなと感じています。リーマン・ショックといえば、私も、日本と欧米の経済の根本的な違いが起こったのは、あの時からだと思っています。当時の企業の戦略や考え方の違いが今の差につながっていると思うのです。米国は現在のデジタル化、データ化を見据えたような最先端技術に国策として投資し、それによって生まれた利潤を人に還元し、個人所得を増やして消費を拡大するという正のスパイラルに入っていった。欧州はどちらかというとブランド価値などの付加価値をしっかりと守ることで、利潤を生み、やはり人に還元することで市場を拡大した。一方、日本の場合は、各業界のメガ企業を中心に生産性を上げることでコストを下げようとした。末端価格を安くして市場に投入することが人に対する還元になるという捉え方だったと思います。効率化をしているのですが、多くが時間と人を投入しての効率化であって、いわゆる生産性のイノベーションというのとは少しベクトルが違っていたのかなと感じています」
省庁横断で課題洗い出し
安田「仰る通り、これまで日本の長所だった連続的な改善を行うこと、労働者の質が高いことなどが、かえってデジタルプラットフォームを形成する上での足かせになってしまったことは否めないですね。一方、日本でも近年ではSociety5.0の提唱など政府も次世代の国家形成・社会形成の土台として改めてデータやデジタル技術の活用を重要視していますね」
宮本「Society5.0に関しては、昨年1月のダボス会議で安倍晋三首相がDFFT(信頼ある自由なデータ流通)を提唱し、昨年6月のG20大阪サミットを機に、データとデジタル経済の潜在力の十分な活用に向けて国際的な議論を推進する『大阪トラック』を立ち上げました。それが起点となって、世界貿易機関(WTO)や経済協力開発機構(OECD)など、いろんな場面で議論が進むようになっています。デジタル技術が社会や人々の生活に作用していく中で、社会の変化に合わせた“ガバナンス・イノベーション”を実現していかなければならないということで、OECDのほうでも世界各国の各種規制に関しての調査研究も進めていただいています。一方、国内においても、政府が昨年6月に『デジタル時代の新たなIT政策大綱』を策定。さまざまな分野で、規制の在り方も含めて省庁横断的に課題を洗い出していこうという流れにあり、主に、政府のシステム予算の一元化、法規制の改革、そしてサイバー・フィジカル・セキュリティー対策フレームワーク策定といった項目を掲げています。それを現地・現場にしっかりと落とし込んでいこうということで、先の臨時国会と今の通常国会に3つの法案を提出しました。このうち、企業のDXを推進するための『情報処理の促進に案する法律の一部を改正する法律』は既に成立。次世代通信規格の5G環境を整えたり、ドローンなどのインフラ整備を促進したりするための『特定高度情報通信技術活用システムの開発供給・導入促進法案』と、中小企業にとっても重要な取引基盤であるデジタルプラットフォームの透明で公正な運用を確保するための『特定デジタルプラットフォームの透明性および公平性向上法案』を閣議決定しております」
【プロフィル】宮本周司
みやもと・しゅうじ 経済産業大臣政務官。東京経済大卒。1995年に家業である宮本酒造店入社、2000年に代表取締役就任。09年全国商工会青年部連合会会長。13年に参議院議員となり、経済産業委員会筆頭理事や自由民主党経済産業部会、中小企業・小規模事業者政策調査会幹部などを歴任し、中小・小規模事業者政策の充実に注力。19年9月から経済産業大臣政務官。49歳、石川県出身。
【プロフィル】安田光希
やすだ・こうき STANDARD代表取締役。灘中時代に株式投資に興味を持ち、世界的なヘッジファンドの創業者、レイ・ダリオ氏の影響で機械学習の世界へ。メガベンチャーで事業立ち上げを経験し2017年8月株式会社STANDARD設立。現在大手企業を中心に350社以上のDX推進・AI活用に関わる。