4月20日にWTI原油価格が一時1バレルマイナス40ドル(約4250円)を超え世界に衝撃が走った。新型コロナウイルスの感染拡大による世界中の移動需要の蒸発で価格が急降下したのである。マイナス価格まで至ったのは、在庫が積み上がるなか米国内で貯蔵タンクが確保できず、引き取り手がなくなったことでお金を払ってでも原油を手放す市場参加者が続出したためである。(日本総合研究所・瀧口信一郎)
フェーズ転換の兆し
今回のマイナス価格は決済時に原油の現物を受け渡すWTI特有の例外的な出来事として扱われているが、在庫自体は2017年の水準を下回っているため単に貯蔵タンクを理由にするのは正しくない。マイナス価格という特異値は、エネルギー市場のフェーズ転換のサインとみるべきだ。
石油輸出国機構(OPEC)は1960年の設立以来、一般的な市場で禁止される事業者間の価格調整(カルテル)を公に行い原油市場をコントロールしてきた。2010年代に米国のシェールオイルが台頭してくると、OPECはロシアを巻き込んで「OPECプラス」へと枠組みを拡大。新型コロナを受け米国を含め日量1500万バレルの協調減産を目指したが、米民間企業にカルテルを拒否され、ロシアやメキシコも自国の利益を譲らず、OPECプラス全体で同970万バレルの減産にとどまった。4月13日の合意は歴史的な減産とも評されたが、カルテルの綻(ほころ)びに目を付けた投資家による徹底的な売りに対抗しきれなかった。
この機に中国は、大幅安になった原油を買い増している。原油安が明確になった3月中旬にペルシャ湾に原油タンカー84隻を送り、1億6800万バレル相当の原油輸送を始めたと報じられた。規模の真偽は定かでないが、世界最大の原油消費国になることが確実な中国は、可能な限り今、貯蔵しておこうとするはずである。
新型コロナ感染症の拡大にも関わらず、湾岸諸国からの中国の原油輸入額は20年第1四半期に前年同期比で14.2%増となった。米国の経済制裁の影響でイランからは減少したものの、サウジアラビアから18.7%、イラクから45.0%、クウェートから39.7%増加している。
また、4月のマイナス価格時には米国の在庫急増を回避するため、BPやロイヤル・ダッチ・シェルがタンカーを大量に調達して中国への輸送を図ったとされ、今後米国の原油も中国に輸送される可能性がある。今起きている構造転換は、OPECの言いなりにならないシェールオイルや産油国の国家財政依存といった要因に端を発し、今後、巨大な需要を持つ中国の動向がより影響力を持つということである。
世界の移動需要はいずれ回復し、原油価格は一定の水準を取り戻す。米国とイランの対立が再燃してホルムズ海峡が危機に陥れば、原油は再び高騰する可能性もある。