海外情勢

スラム住民が新型コロナ感染拡大で生活綱渡り アジア各国で失職や支援遅れ

 アジア各国のスラムで、新型コロナウイルス感染の危険と隣り合わせで暮らす人たちがいる。汚水を直接川に捨てる不衛生な環境、狭い家にひしめく大家族-。感染拡大のあおりで、辛うじて手にしていたわずかな収入を失い、綱渡りの生活を余儀なくされている。

 フィリピンの首都マニラのトンド地区。木材やトタンで造った粗末な家が密集し、バイクや土嚢(どのう)が雑然と置かれている。人とすれ違うのがやっとの入り組んだ路地で、やることもなく座り込む人たちがいた。ごみだらけの川べりでは、裸の子供が遊ぶ。

 「朝食を取らなくてもいいように、昼に起きるようにしたの」。リオナ・ビセンテさんは力のない笑みを浮かべた。感染拡大防止のため3月中旬に外出が原則禁止となり、働いていたファストフード店は一時休業に。月5000ペソ(約1万円)の収入を失うことになった。歩合給のエアコン修理に携わる夫も、稼ぎはほぼなくなった。

 政府は低所得層向けの支援金の支給を決めたが、いつ手元に届くか分からない。「既に5000ペソをもらった家庭があると聞いた。地区の責任者が対象世帯を選別しているに違いない」とビセンテさん。支援の遅れから疑心暗鬼になり、地域住民の間に亀裂が入り始めた。

 無職の女性の家では、家族5人が川の字になって密着して寝る。家族といる安心感が支えだが「マスクや消毒液を買うお金なんてないし、医療も受けられない」。出口の見えないトンネルにいるようで、ふとした瞬間に気がふさぐ。

 3月25日から全土を封鎖したインド。西部ムンバイのダラビ地区は東京ドーム約40個分の面積に100万人以上が暮らし、アジア最大級のスラムとされる。ダラビ地区の感染者は4月29日までに340人を超え、18人が命を落とした。当局は消毒作業を進めているが、水道設備が貧弱で手を洗うことも難しい。いつ感染爆発が起きてもおかしくない状況だ。

 多くの人が工場や建設現場での仕事を失い、収入が途絶えた。食事は州政府の配給が頼りだ。非政府組織(NGO)の調査では、配給が1日1回だけのケースが大半で、食事が腐っていて体調を崩す人もいた。スラムに住む労働者ら数千人がムンバイの駅に集まって抗議し、警官隊との小競り合いも起きた。

 ダラビ地区で生活支援に取り組むNGOのムハンマド・シャイクさんは「住民は感染と飢えの恐怖に直面している」とし、貧困層への支援を急ぐよう訴えた。(マニラ、ニューデリー 共同)

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