海外情勢

タイ農村 オンライン授業浸透せず 学校始業先送り 支援・奨学金不足も

 新型コロナウイルスの感染拡大が、貧しいタイの農村や少数民族の子供たちの学習機会を奪っている。学校の始業時期が当初の5月16日から7月1日に延期されたためだ。教育省は始業式までの期間、地域ごとに通信衛星やインターネットを活用したオンライン授業を進めるが、遠隔地の農村などではその設備すらない。子供たちの親も収入を減らし手が回らない状況だ。

 2000万人以上が暮らすタイ東北部。イサーンとも呼ばれるこの地方は、いまなお雨水に頼る農業が中心の貧しい地域だ。「地域開発教育基金(EDF)」は、ここで暮らす恵まれない子供たちを対象に奨学金の支給を続けている。1987年に活動を始め、これまでに30万人以上を支援してきた。

 ところがコロナ禍に見舞われた今年は、前例のない危機に直面している。財源である寄付金が集まらないのだ。選考基準を基に弾いた今年度の要支援・奨学金受給選考通過者は1万人強。これに対し、3月末現在で集まった寄付金は5627人分しかない。このままでは、5000人を超える子供たちが学用品や制服を購入できない可能性がある。

 親「無償」名ばかり

 小中学校などタイの基礎教育は通算15年。公立であれば高校や職業学校まで「無償」で通うことができる。しかし、財源不足から「無償」とは名ばかりで、政府から子供1人当たりに支給される助成金は必要額のわずか3分の1~5分の1。不足分をEDFのような民間団体などが援助している。

 EDFで代表を務めるスンペットさんは「このままでは子供たちの教育機会が失われてしまう」と緊急の声明を発表し、さらなる追加支援を求める。学校の始業延期に合わせ、寄付金の受付期間も延長した。

 北部カムペーンペット県では、教育委員会の方針の下に5月中旬以降、通信衛星やネットを使ったオンライン授業を始めることにした。少しでも学習の遅れを補うためだ。

 ところがこれに異を唱えたのは、教職員のグループだった。地域には衛星放送「DLTV(ディスタンス・ラーニング・テレビジョン)」の受信機器が1台しかなく、全ての子供たちが視聴することはできない。教職員宅でネットを使って授業を受けさせる案も浮上したが、幼い子供たちを一定時間、画面に集中させるのも困難だとして難色を示す。

 DLTVは政府が教育の機会均衡を目的に導入した衛星教育テレビで、小学1年~高校3年まで段階的にカリキュラムが用意されている。これまで、遠隔地で学校に通えない子供たちなどが利用してきた。ただ、受信機器の用意に一定の費用がかかるなど、必ずしも浸透しているとは言いがたい。

 子供の親たちもコロナ禍でかつてないほどの収入減となり、仕事を求めてそれどころではない。同県でスイカを生産する農家のニウさんは、市場が閉鎖となり商品が全く売れなくなった。困り果て国道でゴザを敷き売り始めたが、収入は通常の10分の1以下。1キロ売って3バーツ(約10円)にしかならない。子供の教育は後回しせざるを得ない。

 少数民族の遅れ深刻

 北部チェンライ県の山間部で暮らす少数民族、苗(ミャオ)族の村でも、教育の遅れが深刻となっている。苗族は独自の言語を持ち、親たちの世代はタイ語を解せない人も少なくない。コロナ禍で自宅に控えるよう命じられ、村に1つしかない学校も閉鎖されたままだ。

 飲料や日用品を売り、子供2人を育てるサイさん一家も2カ月になる学校の閉鎖に困惑を隠せない。再開の見込みは分からないといい、オンライン授業を受けるための通信手段は家にも学校にもないとも話す。今はじっと我慢の時だ。

 国立カセサート大学が実施した全国調査で、地方を中心にタイの就学人口の実に3人に2人がネットに常時アクセスできないことが分かった。近年は安価なスマートフォンも開発され端末自体は行き渡っているが、常時接続の使用料を支払える人は多くない。前払いのプリペイド方式が中心のためでもあるという。このため、オンライン授業を行ったところで参加できるのはせいぜい45%程度と、同大ではみる。未曽有のコロナ禍は、通信インフラの未整備と相まってこんなところにも影を落としている。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)

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