海外情勢

コロナ抑止のタイ民間病院、日本人に安心 先進設備や人材充実 通訳も多数在籍

 大使館登録だけでも7万人以上の日本人が暮らす東南アジアのタイ。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した3月以降、航空便の運休や出入国規制から現地で足止めを受け、タイに残った人も少なくない。その中には、乳幼児や妊娠している女性も含まれていた。こうした状況にあって、現地で滞在を続ける人々に少しでも安心を届けようと情報発信を続け、感染拡大の防止にも成功した民間病院がある。バンコクにある私立大手サミティヴェート・スクムビット病院だ。病院のホームページには、当時利用者から寄せられた問い合わせへの対応の跡が今も残る。関係者にこの3カ月を語ってもらった。

 徹底した隔離対策

 「小児科や内科、産科など通常の病院業務を止めることなく、一方で新型コロナの感染拡大にも対応しなければならない状況にあった」と振り返るのは、大阪府にある高槻病院からサミティヴェート病院に出向中の小児科・新生児科の専門医、南宏尚医師。日本では院内感染対策委員長も務めたことのある感染対策の専門家で、今回の新型コロナ対策でも先頭に立って対処に当たった。

 同院が取った感染予防策は、徹底したウイルスの封じ込めだった。発熱のある患者については受付を「緊急外来(ER)」に一本化。赤色のイメージカラーを前面に出して間違えを防いだ。熱はないもののせきや息切れがある患者についても可能性を疑い、駐車場に設置した特設テントの「呼吸器症状特設クリニック(ARI)」に収容。黄色の張り紙を貼って、一般病棟への立ち入りを防いだ。

 治療に当たっても、他の一般患者との接触を遮断するため、丸々一棟を新型コロナ向けの専門病棟に。こうした徹底した隔離対策がウイルスの広がりを防いだものとみられている。日本で感染確認者が累計1万人を超えた4月中旬の時点で、タイのそれは3000人余り。南医師は「さらに感染が拡大したら、もう1棟専門病棟を置く準備もしていた」と明かす。

 この間は通常業務に支障が出ないようにも努めた。同院には乳幼児の予防接種や妊婦健診を見合わせた方が良いかとの問い合わせが相次いでいた。中にはストレートに「日本に帰った方が良いか」との相談も。同院では普段通りの診察を続けながらも、不安を見せる患者には個別に対応。南医師は日本での感染が深刻になっているという実情を冷静に説明し、「無理に帰国を勧めることはしなかった」と振り返った。

 同医師がそう言い切れるのには理由があった。サミティヴェート病院をはじめバンコクにあるいくつかの大手総合病院は、日本や欧米のそれと比べて遜色ないほどの先進病院。医療設備はもちろんのこと、勤務するタイ人医師も欧米などで先端治療の研究に携わってきたプロフェッショナルばかりだ。加えて同院には50人を超える日本語通訳者が在籍し、言葉の不安も一切ない。1日当たり400人、年間延べ13万人という日本人来院者実績がそれを物語っている。

 Q&Aで相談公開

 とはいえ、不安はなかなか払拭できないのも実情だ。感染を恐れて通院や診察を控える人も、実際に出るようになった。そこで同院では、ホームページなどで積極的に情報発信を行うようにも心掛けた。企画担当の上坂みづえさんもそうしたスタッフの一人。電話などで受け付けた相談内容をQ&A形式にまとめて公開する作業を続けた。1月末から5月にかけてそれは実に13回にも上った。

 こうした努力が功を奏し、同院もいつもの落ち着きを取り戻しつつある。院内の駐車場に開設したARIも4月半ばには撤去した。今はERだけで十分に賄える状況にある。健診をためらっていた妊婦も、安心して出産に臨むようになった。1月以降4月末までに同院で出産した日本人女性は50人を超える。

 イメージばかりが先行し、タイの医療を軽視する日本人の見方は少なくない。だが、新型コロナ騒動の中でもサミティヴェート病院をはじめ少なくないタイの病院は、見事ウイルスの封じ込めに成功した。医療崩壊も起こらなかった。このところタイは新規感染者が1桁で推移し、間もなく大幅に規制が緩和される見通しだ。そこには、懸命に現場に立ち向かった医療従事者たちの存在があった。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)

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