総務省の有識者検討会では、ネットで誹謗(ひぼう)中傷を受けた被害者が開示請求できる発信者情報に、携帯電話番号が加えられる見通しとなった。被害者にとっては朗報だが、裁判手続きに時間がかかるなど、まだ見直すべき課題は多い。一方、行き過ぎた情報開示は表現の自由を阻害しかねないという問題もはらむ。バランスの取れた制度にするためにも、丁寧な議論が求められている。
「裁判が1回で済むケースが増える」。4日の検討会では、携帯電話番号が開示情報に加わることに賛同する意見が相次いだ。現行法では被害者が誹謗中傷を行った人を特定するのに、2度の裁判手続きを行うことが一般的で、大きな負担となっていたからだ。
被害者が発信者を特定するには、まずSNSのサイト運営者に発信者情報の開示を求めることになる。ただ、サイト運営者が持つ情報は本人確認が不十分なケースが多い。そこで、投稿時のIPアドレスから、投稿者が使用するプロバイダーを特定し、プロバイダーに氏名や住所を開示してもらうという2段階のステップを踏む必要があるのだ。
携帯電話番号が開示されれば、サイト運営者の段階で本人確認が可能となり、プロバイダーへの開示請求が不要となることが期待できる。
それでも被害者が裁判手続きを取るという負担は変わらない。サイト運営者やプロバイダーが独自の判断で情報開示することも可能だが、発信者から訴えられるリスクがあり、多くの場合、裁判所が開示の是非を判断している実態があるからだ。検討会ではプロバイダーなどの判断で情報開示をしやすくする仕組みを求める声も目立った。
ほかにも、SNSサイトの運営者は海外事業者が多く、裁判手続きに時間がかかることや、IPアドレスの保存期間が3カ月と短い点が課題として上がった。
一方で、発信者情報の開示が容易になれば、健全な情報発信者が萎縮する可能性もある。否定的な表現のどこまでが適法で、どこからが違法か判断が難しいからだ。企業が内部告発者を特定するのにこの制度を利用することも考えられる。
インターネットの権利侵害に詳しい中島博之弁護士は「外出自粛でネット上のトラブルが増えている。泣き寝入りする被害者も多く、実効的な救済の仕組みの早期構築が必要だ」と話している。(蕎麦谷里志、高木克聡)