海外情勢

コロナで欧州の「キャッシュレスの波」が“激流”に 深刻な社会問題も (1/2ページ)

 新型コロナウイルスの感染が拡大した欧州でキャッシュレス化が進んでいる。ウイルスが付着した紙幣が感染を媒介する恐れがあるとの見方が広がったことで、ATM(現金自動預払機)の利用額は大幅に減少。金融当局は感染拡大防止策の一環としてキャッシュレス決済の普及を後押ししている。ただ、キャッシュレス化には現金払いにいまだに頼る低所得者ら社会的弱者を置き去りにする危険性やサイバー攻撃のリスクがあるとも指摘されている。(ロンドン 板東和正)

 英国のATM運営団体「リンク」によると、3月下旬の国内のATM利用額は前年同期比で62%減少した。英国では3月23日から感染拡大を受けた外出制限が始まっており、外出を控える「巣ごもり消費」でインターネット通販を利用する国民が増えたことが一因とみられる。

 また、現金に触ることで感染リスクが生じることを恐れる国民が多いこともATM利用額減少の要因だとされる。ロンドンに住む男性(44)は「外出制限が緩和されても、現金を使うつもりはない」と打ち明ける。リンクのジョン・ハウエルズ最高経営責任者(CEO)は英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)に「ATMの利用額が元の水準に戻ることはなさそうだ」とした上で、ATMの設置台数が今後30~40%程度減ると予測した。

 ATM利用額減少と並行して、欧州ではキャッシュレス決済の普及も進む。なかでも非接触で決済できる「コンタクトレス決済」には金融当局も高い関心を注ぐ。

 ロイター通信によると、欧州銀行監督機構(EBA)は3月、決済サービス事業者に対し、コンタクトレス決済の利用拡大を進めるよう促した。EBAはコンタクトレス決済が感染拡大防止に役立つ可能性があるとみているという。英国では4月、コンタクトレス決済の1回あたりの支払額の上限が30ポンド(約4千円)から45ポンドに引き上げられた。

 キャッシュレス化は他の欧州諸国でも加速している。英FTによると、アイルランドでは3月27日の外出制限実施後、1日当たりのATMからの現金引き出し額が40%落ち込んだ。スペインでも現金流通量が90%も低下したという。

 欧州での現金離れは新型コロナの発生前からの現象でもある。英メディアなどによると、2015年から18年末までに英国で2千を超える銀行支店が閉鎖となり、19年にはATMが月間約300台ペースで撤去された。ATMの維持費がかさむことも要因だという。

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