専欄

建国から70年余りでようやく 民法典と中国の価値観 

 元滋賀県立大学教授・荒井利明

 中国で初の民法典が制定され、来年から施行される。その特徴の一つは、「社会主義核心的価値観」の発揚が目的とされていることである。

 1949年の建国から既に70年余り、ようやくできた民法典である。過去に4度、制定が試みられたが、その都度、激しい政治運動などで頓挫した。

 今回は2015年に制定作業が始まり、先月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で最終的に審議、承認された。中国のメディアは、「法典の編纂(へんさん)は国、民族が繁栄、隆盛に向かう象徴」と述べている。

 これまで民法典はなかったが、婚姻法や相続法など個別の民事関連法が制定されている。民法典の施行に伴い、それら個別の法律は廃止される。

 7編1260条からなる民法典は第1編の総則で、「社会主義核心的価値観を大いに発揚する」と述べており、民法典と社会主義核心的価値観が密接に結び付いていることが分かる。

 この価値観は「西側の価値観」とは異なるもので、その基本的内容は、国家の建設目標としての「富強、民主、文明、和諧(調和)」、社会の構築理念としての「自由、平等、公正、法治」、国民の道徳規範としての「愛国、敬業(勤勉)、誠信(誠実)、友善(友好)」である。

 習近平は折に触れて、「社会主義核心的価値観を積極的に育成、実践し、全人民が追求する共通の価値としなければならない。強い感化力のある核心的価値観の確立は社会の調和と安定、国家の長期安定にかかわる」と述べ、この価値観が教育や世論などを通じて人々の精神に内面化され、人々の行動に具現化されるよう求めている。

 民法典に関して、離婚のクーリングオフ制度の導入が話題となったが、中国の専門家は、この制度も社会主義核心的価値観の体現だとしている。これは衝動的な離婚を防ぐためで、民法典は離婚届の提出後30日以内ならば、夫婦の一方の意思で離婚が撤回できると定めている。

 また、「自主的な緊急救助行為によって被救助者が損害を受けても、救助者は民事責任を負わない」ことも規定されている。人助けの勇気ある行動を奨励するもので、これも社会主義核心的価値観の体現と評されている。

 一般に法律はその時代における社会の主流の考え方や価値観を反映しているが、習近平政権は法律によっても社会主義核心的価値観を社会に浸透させようとしているのである。(敬称略)

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