新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により例年に比べて2カ月半遅い5月末に開催された今年の全国人民代表大会(全人代)では、国内外の経済動向をめぐる不透明感を理由に成長率目標が示されない異例の内容となった。その一方、さまざまな財政拡張策などを通じて雇用拡大を目指す方針が示されるなど、雇用を重視する考えが示された。足元では、感染収束を受けて経済活動の正常化が進んでおり、企業マインドも改善しているものの、雇用を取り巻く環境は引き続き厳しい状況が続いているとみられる。(第一生命経済研究所・西浜徹)
成長率目標示されず
全人代の日程をめぐっては、例年3月5日から約2週間にわたって開催されるものの、今年は新型肺炎の感染拡大を受けて、中国全土から約3000人が集まる一年で最大の政治イベントも延期を余儀なくされた。その後は感染収束により経済活動の正常化が進んだことを受けて、5月22日から約1週間と日程も大きく短縮される形で開催された。
全人代においては、初日に発表される「政府活動報告」でその年の経済成長率目標が示されるのが恒例となっている。しかし、今年は新型肺炎の感染封じ込めに向けた都市封鎖措置などの影響で、1~3月の実質国内総生産(GDP)成長率が前年比マイナス6.8%と四半期ベースで初めてのマイナス成長となるなど景気に大きく下押し圧力が掛かった。さらに、新型肺炎のパンデミック(世界的大流行)を受けて世界経済の低迷が懸念されるなど、外需を取り巻く環境にも不透明感がくすぶる。こうした状況を反映して、今年は成長率目標が示されない異例の内容となった。
なお、ここ数年の全人代では経済政策の柱の一つに雇用が据えられる展開が続いてきたが、今年も「積極的な財政政策」や「穏健な金融政策」とともに「雇用重視政策」が掲げられた。さらに、全ての政策運営で雇用創出に向けて連携を図る姿勢が示されたほか、地方政府に対して雇用創出に向けた規制緩和の実施を要請するなど、過去数年に比べても雇用を重視する姿勢が鮮明に示された格好である。
ここ数年、中国政府が雇用を重点政策に掲げてきた背景には、人件費の上昇などを理由に農村部からの出稼ぎ労働者である農民工を取り巻く環境が悪化していることがある。そして、人民解放軍の近代化に伴う人員削減の影響で退役軍人が増大しており、その雇用の受け皿が必要になっていることも影響している。さらに、大学の新卒者は年間900万人弱に達しており、経済および社会の安定を目指すためには雇用機会の創出が至上命題となってきたといえる。
政府が今年の経済成長率目標を設定できなかった背景には、中国経済が国内外でさまざまな不透明要因に直面していることが影響している。全人代では900万人以上の新規雇用創出に加え、再就業の促進などを通じて調査失業率を6%程度、登記失業率を5.5%程度に抑える方針が示されたが、そのハードルは極めて高い状況にあるといえよう。