裁判所と弁護士事務所をインターネットでつなぎ、訴訟当事者らがウェブカメラを通じて争点整理などを行う「ウェブ会議」に期待が高まっている。裁判所を訪れる必要がなく、審理の迅速化が実現するほか、3密も防止できるとして、感染予防を目指す「新しい生活様式」とも親和性が高い。導入2カ月での実施実績は全国で480件。利用した弁護士の評判も上々という。(桑村朋)
ウェブ会議は民事裁判のIT化の一環として2月からスタート。知財高裁と東京、大阪などの9裁判所で先行導入され、現在は14裁判所で運用する。
米マイクロソフト社のビデオ通話アプリ「チームズ」で裁判官や弁護士らをつなぎ、争点整理や準備書面の共有、和解協議を非公開で行う。専用アプリを導入したパソコンがあれば場所を問わず利用可能だ。電子化された資料を画面上で共有することもできる。
最高裁によると、実施件数は2月が134件、3月は倍以上の346件に上った。最高裁は「理由の分析は時期尚早」とするが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で利用が広がった可能性がある。緊急事態宣言が出された4月以降の実施状況は、7月にもまとめるという。
民事裁判では裁判所、原告側、被告側の三者間の日程調整が難航するなどし、審理が長期化する傾向がある。最高裁のまとめでは、民事裁判の平均審理期間は9カ月、証人尋問を行う場合は21カ月を要する。長期化は当事者の負担増や訴訟意欲の低下を生みやすく、長年の課題でもあった。
ウェブ会議を3回実施した松尾吉洋弁護士(大阪弁護士会)は「機材を整える必要もなく、雰囲気も裁判所とそう変わらない」と評価。コロナ禍で裁判が止まったことにも触れ、「緊急時に社会機能をストップさせないためにも、司法界はもっとITを活用すべきだ」と話す。
法務省や最高裁は、現行法の範囲でできるウェブ会議を司法のIT化に向けた第1段階と位置付けており、「ウェブ会議でITを通した裁判の進行を体感してもらい、今後のIT化をスムーズに進められれば」と同省担当者。今後、訴状を電子データで提出できるようにすることが最終的な目標だ。
IT化に慎重意見も
「裁判のIT化はデジタル時代の要請だ」と語るのは、政府の有識者検討会で委員を務めた日本大の杉本純子教授(民事手続法)。「日本は法律の種類や公平性は負けていないが、IT化だけは2周遅れ。完全に取り残されている」とこぼす。
杉本氏によると、韓国は日本と同時期に裁判のIT化議論を本格化させたが、今では多くの民事手続きがオンライン化。訴状や答弁書をアップすれば相手側の弁護人に通知され、いつでも閲覧可能になるという。