国内

「感染者出る怖さ、思い知った」 東京・世田谷の介護施設

 【現場から】

 新型コロナウイルスの脅威が高まる中、高齢者約90人を抱える東京都世田谷区の高齢者介護施設の空気が一変した。「感染者が出る怖さを思い知った」。施設長の男性(49)は振り返る。

 濃厚接触者51人

 「職員が陽性です」。3月下旬、施設長のもとに保健所から1本の電話が入った。施設の通所介護(デイサービス)に携わる職員が感染していた。

 予兆は1週間前にあった。この職員が微熱のため早退していたのだ。職員14人、利用者37人が濃厚接触者として自宅待機になった。デイサービスは2週間の営業自粛を決めた。

 「後ろから殴られた思い」を抱えながらも、すぐに対応に追われた。中でも苦労したのが、濃厚接触者となった高齢者の受け皿の確保だ。濃厚接触者は他のデイサービスや訪問診療の利用を断られたため、法人内の事業所などを模索。約3週間、切羽詰まった状況が続いた。施設には「近くの薬局も使いたくない」といった誹謗(ひぼう)の言葉を浴びせる電話も相次いだ。その後、新たな感染者は出ず、4月上旬に再開した。

 明確な対処法示さず

 現場では、感染者が出た場合の明確なルールづくりを行政に求める声もある。

 同施設は特別養護老人ホーム(特養)も併設し、高齢者約90人に職員50人が対応している。食事や入浴など職員と入所者が密接に関わることが多く、濃厚接触者である職員の感染にも警戒を強めている。施設長は「職員がウイルスを持ち込む可能性が一番高い」と消毒作業などを徹底。対策を日々模索する中、「特養で感染者が出た場合の対処方法を行政に聞いても、いまだに明確な答えをくれない」と不満を漏らす。

 現状では、感染が判明した高齢者は原則入院するが、検査結果が出るまでや陽性判明後に入院先を調整するまでの間、施設内で待機する可能性がある。

 同施設は対応マニュアルを他の施設が情報共有したものを参考に作成。ある施設では、多くの職員が濃厚接触者となった場合、介護崩壊への危機感から「濃厚接触者でも勤務を続けてもらう」などとしていた。

 「疑問は抱いたが、そうするしかないのかとも思った。誰も正解はわからない中で、常にせめぎ合いだ」と施設長。行政にルールの提示を求め、高齢者が感染者や濃厚接触者となった際に、速やかに別の事業所などで介護を受けられる環境整備や病院などの十分な受け皿の必要性も指摘した。

 負担増すヘルパー

 第2波への不安が広がる中、在宅高齢者らを支えるホームヘルパーへの負担感が増し、離職を危惧する声もある。港区の訪問介護事業所の女性所長(53)は「現場のヘルパーたちは不安や感染リスクと隣り合わせで、離職に拍車をかけかねない」と懸念する。背景にあるのは、ヘルパーの人手不足と高齢化だ。

 同事業所に登録するヘルパー10人の平均年齢は約60歳で、最高齢は75歳。1日3件は訪問し、感染の疑いがある高齢者の家ではシャワーキャップや紙エプロンなどで対応する。コロナストレスで以前より利用者が怒りっぽくなっていたり、暴言を吐いたりすることが増えるなど、介護者の負担感は増す一方だ。

 都内では、令和7年度に約3万5千人の介護職員が不足すると推計される。「コロナで失業した人材に介護分野で再就職してもらえるよう、行政主導で資格取得の支援などを行えないか。介護業界に人材を送り込んでほしい」と所長。「感染者の介護に従事するヘルパーに特別手当があってもいい。草の根から介護現場の目線に立った解決策を示してほしい」と求めた。(王美慧)

=おわり

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