海外情勢

カンボジア成長率予測5.5%減 コロナで観光業、輸出が“壊滅”

 アジア開発銀行(ADB、本部マニラ)はこのほど、「アジア経済見通し」の補足版を発表した。4月に発表した報告書「アジア経済見通し2020年版」を、新型コロナウイルスの影響を受けて見直したもので、カンボジアの20年の経済成長率はマイナス5.5%と予測。東南アジア諸国の中でも、タイ(マイナス6.5%)やシンガポール(マイナス6%)に次いで低い成長率となった。

 2.3%増から下方修正

 カンボジアの20年の経済成長率は、4月の時点では2.3%とされていた。補足版によると、新型コロナの感染拡大により、海外直接投資の落ち込み、観光セクターへの深刻な打撃、輸出相手国での需要減による打撃などがさらに悪化するものとみられ、予測を大きく引き下げることになった。カンボジアで経済成長率がマイナスになれば、内戦終結後で初めてだ。

 20年の成長率予測については、カンボジア政府がマイナス1.9%、国際通貨基金(IMF)がマイナス1.6%、世界銀行が最悪の場合でマイナス2.9%などと軒並み厳しい見方をしているが、ADBはさらに深刻な状況になるとみている。

 カンボジア国内では6月末までに、141人の新型コロナ感染者が確認されている。このうち131人が回復しており、死者はいない。また、このうちカンボジア人は68人で半分以下となっており、他は外国人。カンボジア人の感染者もほとんどが外国で感染しており、カンボジア国内では市中感染は発生していないとみられている。

 しかしカンボジア政府は、国内の医療体制が未整備であることもあり、ウイルスが外国から持ち込まれることを強く警戒、社会活動を一気に再開することには慎重になっている。このため、集団感染の恐れがある教育機関は7月になっても休校のままだ。また、観光ビザは発行を停止しており、ビジネスビザなどで国外から入国する全員に対しPCR検査を実施。外国人に対しては、検査費や検査結果が出るまでの隔離費用、飛行機の同乗客に感染者が出た場合の2週間の隔離費用などを含め、空港で現金3000ドル(約32万2500円)を預託させるなどの措置を取っている。

 直撃を受けているのが、外国人旅行客を失った観光セクターだ。世界遺産アンコール遺跡群のあるシエムレアプ州によると、6月までに同州内のホテル18軒とゲストハウス96軒が廃業した。この他、ホテル172軒とゲストハウス99軒が一時的に休業している。また、国内の旅行業者の約1割にあたる124社が休業に追い込まれたという。この数には、観光関連施設や娯楽施設は含まれておらず、それらを含めればかなりのビジネスが影響を受けたと推測される。

 人権問題も影落とす

 クメール・タイムズ紙によるとカンボジア観光相のトン・コン氏は「5月以降、国内旅行者が増えており、6月までに45万人に達した」と、国内需要が増加していることを強調する。しかし、旅行関係者たちは「カンボジアは他の東南アジア諸国に比べても人口が少なく、国内需要への期待は薄い。カンボジアの観光産業を支えてきたのは外国人観光客だ。感染対策をしっかりと取ったうえで、入国制限の緩和をしてほしい」と訴える。

 地元紙の報道によれば、欧米を主な輸出先とする縫製品、靴、旅行関連商品の工場も厳しい状況だ。縫製工場などの経営者でつくるカンボジア縫製業協会によると、欧米からの発注がキャンセルになり、国内1100余りの縫製工場のうち約400工場が休業し、約15万人の労働者が職を失った状態だという。

 欧州連合(EU)は、カンボジア政府による人権抑圧などを問題視して、同国からの輸入品に対する特恵関税制度を撤廃するとしている。新型コロナの感染が拡大する以前は8月からの撤廃を示唆していたが、カンボジア縫製業協会などからは「現状を理解し、撤廃を保留にしてほしい」との声が上がっている。(カンボジア日本語情報誌「プノン」編集長 木村文)

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