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オープンイノベーション用のモデル契約書が好評

 経済産業省と特許庁が先ごろ公表した「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書 ver1.0」(以下、モデル契約書)が知的財産や法務、支援関係者の間で話題だ。

 今回、公表されたモデル契約書は共同研究開発の連携プロセスで必要となる「秘密保持契約書」「PoC(技術検証)契約書」「共同研究開発契約書」「ライセンス契約書」と各タームシート(事前折衝で使う条件概要書)などで、特許庁では契約書の文言の意味を逐条解説で補足してあり、モデル契約書に示された記載を欠いた場合のリスクへの理解を深められるとしている。

 背景には、スタートアップなどが研究開発や自社技術活用を目指し外部連携を進める際、強い法務部門を持つ大企業との契約交渉は容易ではないことがある。下手するとノウハウや発明、事業化機会さえ奪われることも。公取委もこれを問題視。「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」中間報告で実態を明らかにしている。

 好評なのはタームシート。大学研究者の知財活用や大学発ベンチャーに詳しい東北大学・産学連携機構の西村直史特任教授は「公的指針で示されたのは珍しい。実際の項目はもっと細かいが、契約の勘所は押さえられる。契約書作成過程で大企業は黙って句点を入れ、文を抜いたりする。少しの変更で内容は変わる。このようなひな形の利用は変更箇所が見つけやすくなる」と評価する。

 スタートアップがどのような契約を結ぶかは将来の出口戦略となるIPO(新規株式公開)やM&A(企業の合併・買収)の際の企業価値やリスクの評価にも影響する。スタートアップなどへ契約書による防護やデューディリジェンス対策の必要性を提唱しているベンチャーラボ法律事務所の淵邊善彦弁護士は「モデル契約書はスタートアップをこれから支援する弁護士や法務担当者の参考になる。だが示されたような契約を大企業と交渉して締結することは難しい場合も多い。大企業側に有利となる危ない条項はこれ、スタートアップ側に有利な条項はこれ、妥協するならこの書き方と、色々なパターンまで例示して注意点を挙げておけば、より使いやすい内容になるのでは」と助言する。

 一方、「完璧な契約書を作れても、訴訟を起こす力がスタートアップになければ、結局泣き寝入りになる」という声も。大企業側の意識醸成も重要な課題だ。(知財情報&戦略システム 中岡浩)

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