高論卓説

地域観光の要 観光地域づくり法人「日本版DMO」を問う

 県ごとの縦割りでは発想生まれない

 新型コロナウイルスの感染者拡大で問題になっている政府の「GO TO トラベル」だが、その是非は置いておくとして、これからの日本の観光業の在り方について考えてみたい。私はこれまでも日本の素晴らしい唯一無二の文化を基軸としたインバウンド重視の観光を、今後の日本を支えていく中心的な産業に育成すべきだとの見解を示してきた。(吉田就彦)

 その論に変更はないのだが、やり方についてコロナ禍だけでなく少々心配なことがある。現在の観光戦略の具体的な担い手は、政府が導入を進めている観光地域づくり法人「日本版DMO」である。これまでの設立実績を見てみると、広域連携DMOが10件、地域連携DMOが72件、地域DMOが68件あるが、それらのマーケティング・マネジメント対象とする区域のほとんどは、行政区単位での区分になっている。そこに問題の本質がある。

 当然、国(観光庁)が認可して登録させるDMOであり、地方公共団体との連携をうたっているので、分かりやすい行政区ごとの団体申請は当然といえる。だが、観光の本質的な価値は、単に土地の区割りにあらず、文化・歴史や風土、暮らしとの関連であり、それらが関連し合うことによって魅力が醸成されるものが観光資源のコアのはずである。すなわち、その地にある文化を中心とした考えでのDMO設置であるかどうかが、そのDMOが本当に機能するかの大きなポイントになると考える。

 地域連携DMOの中には、中海・宍道湖・大山圏域観光局のように、同じ出雲圏の鳥取県境港市や島根県松江市が県をまたいで入っているようなケースも少しはあるが、おおむね県を中心とした、行政区での縦割り設置が目立つ。本来文化地域を連携させて、そのマーケティング効果を生み出すべき戦略を考えるのがDMOなのにだ。

 この法人にしても大山圏まで含める必要があったのかには疑問が残る。日本の文化は大きく江戸時代に遡(さかのぼ)る藩やそれ以前の歴史によることが多い。その地域文化が本来その地域の魅力を伝えることになる。対象が広すぎても散漫になり、重要な地域が外れてしまえば意味がなくなる、さらに文化をベースにDMOを形成するとなると飛び地や県またぎは多くなってしかるべきで、それこそが観光のダイナミズムを増し日本の観光の深みを生む。

 理想のDMOの在り方に現在の制度がついていっていないとするならば、その原因は国が行政区をコントロールすることで推進していることにある。本来ならば国の権限を緩やかに、地域が躍動できるDMO体制を敷くべきなのだ。そうしなければ文化ベースの戦略は描きにくい。

 さらに、地域の行政区が中心となってしまっていることによる問題は、行政そのものの存在限界がある。行政主体で戦略を策定することにより、当然、管轄域内の観光事業者に対する公平性がネックとなる。税金で賄われる行政主体であればやむを得ないことではあるが、観光事業者の民間の活力を十分に引き出すためには、面白いアイデアやユニークな取り組みなどの可能性を速やかに広げ形にしていくべきだ。

 そもそも観光という事業は人の心にどう響くかが鍵となる。ある意味ではヒット商品を生み出すことにも通ずる。その知恵なしにいくら制度を整えてもDMOは有効に働かない。行政はDMOのサポートのみに注力すべきだ。

【プロフィル】吉田就彦

 よしだ・なりひこ ヒットコンテンツ研究所社長。1979年ポニーキャニオン入社。音楽、映像などの制作、宣伝業務に20年間従事する。同社での最後の仕事は、国民的大ヒットとなった「だんご3兄弟」。退職後、ネットベンチャーの経営を経て、現在はデジタル事業戦略コンサルティングを行っている傍ら、ASEANにHEROビジネスを展開中。富山県出身。

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