固有種の植物に恵まれるオーストラリアで、遺伝的な多様性を維持するため、植物の種子を保存する「種子銀行」の重要性が増している。同国では今年2月までの約半年間、史上最悪規模とされる森林火災が続いた。温暖化など気候変動の影響で大規模な森林火災が恒常化するとの予測もあり「種の保存」のため多くの種子を集めることが急務となっている。
「オーストラリアの植物相の多様性には目を見張るものがある。2万5000もの種類があり、そのうち85%が固有種だ」。東部ニューサウスウェールズ州マウントアナンにある「オーストラリアン・プラントバンク」のブレット・サマレル所長が説明する。
サマレル氏によると、プラントバンクは絶滅危惧種を含む約6500種の種子を保存する。多くは科学者が州内各地の森林で集めたものだ。室温を16度に設定した乾燥室で十分に乾かした後、多くの種子は零下20度の冷凍庫に移される。
こうした環境で種子は200~300年間、生存が可能となる。生存を確認するために10年に1度程度、発芽テストを実施しているという。
オーストラリアでは1788年の英国人入植以来、農地開拓や都市開発のために森林伐採が進んだほか、外来種の雑草や害虫の影響もあり、植物は常に危機にさらされてきた。近年では記録的な干魃(かんばつ)と、それを主因の一つとする大規模な森林火災が植物の生存を脅かしている。
昨年からの森林火災では、恐竜が繁栄した2億年以上前に自生していたことから「ジュラシック・ツリー」と呼ばれ、現存する最古の種子植物とされるナンヨウスギ科「ウォレマイ・パイン」の原生林が消防士らの決死の消火作業によって焼失を免れ、地元で話題となった。
ウォレマイ・パインは150万年前に絶滅したと考えられていたが、1994年、同州のウォレマイ国立公園で約100本が群生しているのが見つかった。その後、繁殖に成功したが、絶滅危惧種のため群生地は明らかにされていない。
サマレル氏は「プラントバンクにはウォレマイ・パインの種子や、クローン技術で作った苗もあるので絶滅することはないが、原生林が燃え尽きてしまうのではないかと心配した」と振り返る。気候変動など植物に迫るさまざまな危機に対応し、豊かな生態系を守るため「さらに多くの種子を集め、保存することが重要だ」と訴えた。(マウントアナン 共同)